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1-14またダンジョンに挑戦する
「おや、貴方たちもまたこのダンジョンに来たのですか?」
「君は確かステラさん、だったね」
「そうですね、今日はヴァンさんとフィーネさんはどちらに? まぁ、ヴァンさんは私たちの前に出てこれないでしょうが」
僕たちとまた会ったのは以前に組んだパーティにいた神官のステラだった、白い髪に赤い瞳をして今日も神官服を着ていたが、組んでいる人間たちは違っているようだった。別の剣士やシーフ、それに魔法使いらしき三人の人間と来ていた。
「ああ、ヴァンのパーティは抜けました。正直なところヴァンの評判が急に悪くなりまして……、それにこのダンジョンにゾンビなんて出たものだから、神殿から正式に調査してくるように言われたのです」
「……それは大変そうですね」
「……神官ですから神殿には逆らえませんもんね」
それではと短く言ってステラは自分のパーティとダンジョンの中に進んでしまった、ヴァンの評判が悪くなったのには僕たちにも一因があるが仕方がないことだった。僕たちとステラが短く話している間、ミーティアは事情を知ってか知らずか口を出してこなかった。そうして、ステラの姿が見えなくなったら僕たちに話しかけてきた。
「ほんじゃー、準備はええか。ここが師匠が来たがってたぷるぷるダンジョンやけど、つい最近ボス部屋にさっきの子が言ったとおりゾンビが数体出たそうや。ちょっと珍しいことやけど、そんなに珍し過ぎることでもないなー」
「ゾンビが出るのは珍しいことじゃないのかい?」
「そんなにゾンビさんがあちこちにいるのでしょうか?」
「おるところにはおるでー、特にダンジョンにはな。ここの場合は敵が弱いって聞いて油断するんやー、ほいでたまたまできたスライムの食べ残しの遺体に、ほいっとその辺におる死霊がついたりするらしわ」
「そうなのか、ダンジョンでは珍し過ぎることでもないのか」
「なるほど、ミーティアさんはさすがに情報通ですね」
「いやぁ、照れるなぁ。このくらいのことは冒険者ギルドに真面目に行っとれば、わりと簡単に耳に入ってくるんや」
「僕たちも冒険者ギルドをもっと利用してみるよ」
「お仕事もゲット、情報もゲットで二度美味しいですね」
それから僕たちはぷるぷるダンジョン、正式名はフォシルのダンジョンに入っていった。相変わらずスライムがぷよぷよと出てくるが、ミーティアがまずは魔法でそのスライム集団を蹴散らした。
「それじゃ、いっくでー!! 『火炎球!!』」
ミーティアが放った火炎の魔法でスライム集団は跡形もなく消えた、だがまた次のスライムがぷよぷよとやってきた。ミーティアが今度は魔法は使わずに僕と同じこん棒もどきを構えた、僕も同じ武器を構えてスライムだからと油断せずに様子をみた、ソアンも大剣を構えていつでも戦える状態だ。
「師匠の前でかっこつけたくて魔法を使うたけど、本当は危険になる時までとっておきたいねん」
「それじゃあ、確実に油断せずに敵を倒していこう」
「はい、リタ様。ミーティアさん、それでは行きましょう!!」
それからはミーティアと僕はこん棒もどきで、ソアンは大剣を使ってスライムをぶん殴り続けた。物理攻撃には強いスライムでも、こん棒もどきで大人が殴りつければ一撃で倒せた。ミーティアの言う通りこのダンジョンは油断さえしなければ弱い敵しかいなさそうだ、ゾンビと出くわすこともなく順調にボス部屋まで辿り着いた。
「ほいじゃあ、行くでー。ここに出てくるのは通常ならちょっと大きいスライムが一体だけや、このこん棒でも十分に少しずつ殴れば倒せる相手やー。だけど、一番良いのはさっきみたいに魔法を使うことやな」
「今回は危なくなるまで魔法は温存して欲しい、通常の打撃だけで倒してみようと思う」
「はい、私もそうしてみたいです。いずれはリタ様と二人だけで、ここを攻略できるようにしたいのです」
「ほんなら魔法は温存するなー、あたしも5回くらいしかさっきの魔法は使えんし」
「5回でも中級魔法が使えるなら、ミーティアは良い魔法使いなんだな」
「私も中級までなら魔法が使えます、回数もミーティアさんと同じくらいです」
「大剣も魔法も使えるなんてソアンは凄いんやな、師匠も歌が上手いし顔もええし頭も良さそうや」
「……顔は冒険者には関係ないんじゃないかな」
「リタ様、そんなことはありません。女性の依頼人だったら、リタ様の顔はいい武器になります」
僕は歌と頭の良さを褒められたことは嬉しかったが、顔はあまり冒険者には関係ないような、でもソアンは女性の依頼人からの印象が良くなるように言った。そういうこともあるのだろうか、そんなことを考えつつも油断はせずに、僕たちはボス部屋に入っていった。そこにいたのは人間ほどもあるスライムが一体だけだった、さっきまでのスライムは中型犬くらいの大きさだったから、これはこん棒もどきだけではちょっと大変そうだった。
「このボスはな、いつもどおりなら酸は吐かんからな、中に飲み込まれることにだけ注意してや」
「分かった、少しずつ端から殴って削ればいいんだろう」
「私の大剣が役に立ちそうです、殴るのならばお任せください」
ボススライムを倒すのはそんなに難しくはなかった、とにかく大きいが動きが遅くて攻撃がしやすかった。ただ僕のこん棒もどきではその大きな体を少しずつしか削れなかった、ミーティアは女性だから僕よりも非力だったがいざとなれば魔法が使える、結局一番に活躍したのは広い面積を持つ大剣で戦うソアンだった。ソアンは大剣でボススライムを何度も殴り飛ばして、確実にその体を大きく削っていった。
「ほらなー、これで終わりやで。師匠、ソアンちゃん、おつかれさん」
「ありがとう、ミーティア。それにソアン、大丈夫かい」
「はい、リタ様。ミーティアさん、大丈夫です。十数回スライムを殴ったくらいで私は疲れません」
ボススライムは辺りに細かくなって散らばってそのまま消えていった、ちょっと大きめの魔石だけがあとには転がっていた。今回はゾンビなんてものは出なかった、つまりこの前が異常な事態だったのだろうか、たまたまボス部屋で負けた冒険者がゾンビになった。そういうことも稀にあるのだろうか、ミーティアの話を聞いた後なら思う、その可能性は意外なことだが十分にありそうだ。
故郷のプルエールの森でも、稀に森に迷い込んだ人間がゾンビになることがあった。だからこそ僕とソアンは前回は慌てることなく対処できた、人間でもエルフでもきちんと清められた土地以外で死ぬと、本人は生前に何もしていなくてもゾンビになってしまうことがあるのだ。フォシルのダンジョンについての謎は解けないままだが、僕はとりあえずは考えても仕方のない問題と判断した。
「ほいなら、また戻るでー。このぷよぷよダンジョンは何度も攻略してなんぼや」
「そうなのか、それならまた戻ろうか」
「ダンジョンは何度も回るのが、やっぱり常識ですものね!!」
その後もフォシルのダンジョンを数回まわったが、夕方になっても僕たちには何も起こらなかった。一度だけレアアイテムをスライムが吐き出したことがあったくらいだ、それも含めてスライムたちの魔石を合わせて冒険者ギルドで全て売って、それで得られたお金はミーティアと折半して今回の収入にした。夜はいつもどおりにミーティアは酒場で歌い、僕はまたミーティアに音楽の指導をして、少しだけソアンと話をしてから眠ることにした。
「フォシルのダンジョンについてはしばらくは放っておこう、またゾンビが出れば冒険者ギルドで分かるだろうし、今のところこれ以上の情報は得られないと思う」
「そうですね、何も異常はありませんでしたから、多分ですが大丈夫でしょう」
「そうなるとしばらくは冒険者ギルドで依頼を探そうか、僕にもできる依頼が何かあるといいけれど」
「私とリタ様なら、もっといろんな依頼が受けれますよ」
「そうかな、そうだといいね。ソアン、それじゃあ、ゆっくりとおやすみ」
「はい、リタ様。おやすみなさい、また明日」
僕はいつもの眠り薬を飲んで眠った、そういえば眠り薬もそろそろ買いにいかなければならなんだ。プルエールの森から持ってきた眠り薬は残り少なくなっていた、僕は簡単な薬なら作れるがそれには道具がいろいろ必要になる、街で薬屋をみてまわって買ってしまうほうがよさそうだ。そう思いながら僕は眠りについた、ソアンは先にスヤスヤと僕の腕の中で眠ってしまっていた。
翌日も僕は体調が良かった、これなら朝から自由に出かけられそうだ。宿屋にある酒場で朝食をとりながら、ソアンに僕の眠り薬のことを相談した。
「ソアン、眠り薬が少なくなっているから、街で同じような薬を買っておきたいんだ」
「そうですね、リタ様。確かお薬屋さんが何件かあったはずです、どこかで同じような薬が買えるといいですね」
それから鍛錬を広場でした後に薬屋を何件か見てまわった、だが僕が作ったのと同じくらいの効果がある薬がない、薬屋で材料を尋ねると入れても効果のない薬草ばかりが使われていたりした。これは困ったことになった、どうやら自分で薬を作るしかなさそうだ。幸い使っている薬草はエルフの森でなくても、この辺りにある普通の森で採れるものばかりだった。
問題は薬を作る道具だった、最低限の道具だけでも金貨5枚はするはずだ。実際に僕たちが道具屋に行って確かめたら、やはり金貨5枚くらいの出費が必要だった。
「いいじゃありませんか、リタ様には質の良い眠り薬が絶対に必要です!!」
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