3-6イデアとアウフの決闘を見る

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3-6イデアとアウフの決闘を見る

「エルフを侮辱する人間、それなら俺がその決闘を受けよう」 「へへん、エルフなんて長く生きるだけなのです!!」  それから正式に冒険者ギルドの職員を審判に呼んで決闘をすることになった、イデアはその美しさから目立っていてアウフはその大声から皆の注目を集めた。だからそんな二人の決闘を多くの暇な冒険者たちが見に来た、僕もある意味で当事者であったので見ないわけにはいかなかった。勝利してお互いが得るものとしてはイデアはエルフへの侮辱を止めること、アウフはミーティアを口説く権利と言っていた。場所を変えて運動場に二人は移動して、そうして誇りと欲望がかかった決闘が始まった。 「ミーティアさんは俺のものです――!!」 「意味が分からないが、エルフを侮辱したのは許せないな」  タイプの全く違った少年同士の戦いだった、シーフであるらしい子供っぽいアウフは俊敏な動きで、短剣を使いイデアに走り寄った。戦いながらも美しいイデアの方はそうされても慌てずに対処した、彼の武器も同じく短剣で右からきた攻撃をそれで軽く受け止め、そうして逆にアウフに向かって斬りかかった。アウフもその動きを察して避けて動き、この決闘は動きが俊敏な者たちの戦いになった。だが、そこでイデアが魔法を使った。 「『重力(グラビティ)』、そして『怪力(ストレングス)』」  まず『重力(グラビティ)』がアウフにかけられた、当然だがアウフは体が重くなり動きが悪くなった。そして『怪力(ストレングス)』でイデアは自分の力を強くして、動きが遅くなったアウフに斬りかかったのだ。アウフはどうにかその一撃を短剣で受けたが、イデアの『怪力(ストレングス)』に押されて徐々に刃がアウフの体に迫った。その刃が体に届きそうになった瞬間、イデアから凄い殺気が放たれたような気がした、だがそこで冒険者ギルドの職員が叫んだ。 「それまで、この決闘はイデアさんの勝利。敗北したアウフさんはこれから先、エルフを侮辱しないこと!!」 「それでいい、エルフへの侮辱は許さん」 「くっそう、悔しいのです!!」  アウフとイデアの決闘はイデアの勝利で終わった、最初からどちらも俊敏な動きで相手と戦い、見ごたえのある決闘になった。勝利したイデアはいくつかのパーティから声をかけられていた、敗北したアウフは仲間なのか同じ年くらいの少年たちから怒られていた。冒険者にとって冒険者ギルドでの決闘は冒険者を続けるなら大切なことだ、だからアウフはもうエルフを侮辱するようなことを言わなかった。 「俺の負けです、でもミーティアさんを遠くから見つめるのは譲れないです!!」 「…………それってただのストーカーですよね、リタ様」 「…………ミーティアも困ったファンができたみたいだね、ソアン」  決闘に勝利したイデアだったが、どこのパーティの誘いも断っていた。そして僕たちのところにまたきた、それから決闘をしてしまったことを思いがけず謝罪されて、慌てて僕たちは何もできなかったと言ってイデアの勝利を祝福した。イデアはとても嬉しそうな顔をした、同じエルフに認められたのが嬉しかったようだった。 「俺は里を家出して帰れない身なんだ、だから同じエルフに会うと嬉しくてたまらない。だからちょっと無茶をしてしまった、すまない迷惑だっただろうか?」 「ええっと、実は僕たちも村を家出しているんだ。迷惑なんかじゃなかったよ、実はとても助かった」 「そうなのです、私たちも久しぶりにエルフに会えたのです。何だか少し不思議です、あの村が懐かしくなりました」 「そうなのか、お前たちは村に帰れるといいな」 「時期がきたら帰ろうとは思っているよ、もし村の皆が許してくれるならだけどね」 「リタ様は許してもらえるに決まっています、リタ様くらい優秀な方は滅多にいません!!」 「家出するならそれなりの事情があるんだろう、でもまだ帰れる可能性があるお前たちが羨ましい。俺はもう里自体が無くなっているんだ、だからお前たちに大いなる力の加護があらんことを」 「エルフの誇りを忘れない貴方に、大いなる力の加護があらんことを」 「立派に戦った戦士に、大いなる力の加護があらんことを」  そう僕たちはお互いにその無事を祈って別れた、イデアはどうやら単独で動いているらしい、魔法は初級のものしか使わなかった。彼が初級魔法しか使えないのか、それとも使わなかったのか分からなかった。ただ僕たちは久しぶりに同胞に会って、故郷が懐かしくなったのは事実だ。何となく森が恋しくなって、僕たちはその日ダンジョンには行かずに、近くの森で薬草採取と狩りをして過ごした。 「森に来るとプルエールの森を思い出すね、ソアン」 「はい、リタ様。いつか、いつか一緒に帰りましょうね」 「そうだね、二人で一緒に帰れるといいね」 「はい、二人で一緒にです」  その日は薬草を冒険者ギルドで買い取ってもらい、夜になると二人で一緒に宿屋に帰った。そしてミーティアにはソアンがアウフのことを話していた。イデアの美しさと強さや、今日行われた決闘のことまで、詳しくソアンがミーティアに話していた。ミーティアは良い曲になりそうだと、即興で今日の決闘のことを歌ってみせた、彼女の吟遊詩人として腕はますます上がっていた。  その夜はいつもどおりに過ごせたのだが、翌日になると僕はまた病気の症状が出た。もう僕もソアンもこのくらいでは慌てなかった、いつもどおりに僕は鉛のように重くなった体でベッドに横たわっていた、ソアンは訓練や食事をするために街へ出ていった。僕は自分の病気のことを考えたり、昨日の決闘を思い出して自分だったらどう動いたか、同じ短剣使いとして考え直してみたりした。  また僕の病気は7日くらい続いたのだが、7日目は症状が軽くてソアンが出かけた後に起きれるようになった。なので僕一人で街を歩いてみることにした、いつものようにローブを被ってエルフであることを隠し、それからあてもなく街をのんびりと歩いていった。ただ以前ソアンが連続殺人犯に気をつけるように言っていたから、表通りだけを選んで歩いていた。そうしたら、ティスタに出会った。 「こんにちは、ティスタさん。どうしたんだい、大荷物じゃないか」 「あらっ、こんにちは。リタさん、ちょっと買い物し過ぎてしまって」 「どうせだから僕が持つよ、それに服の修理の状況も知りたいしね」 「ありがとうございます、ふふふっ。こんなに紳士的なお客さん、本当に珍しいわ」 「そうなのかい、どうしてなのかな。裁縫屋は服を直してくれる、立派な職業なのに」 「私たちお針子を顔で選ぶ人も多いの、そういう人は大抵はお遊びで口説いてくるのよ」  そう言ってティスタはまた笑っていた、ティスタが笑うともっと大人になったソアン、そんな将来が見える気がして僕は驚いた。そんなソアンはとても魅力的な女性だった、今そう僕の目の前にいるティスタのように魅力的な女性だった。僕はそんなティスタに見惚れて、あまり普段なら女性と話さないのに、いろいろと話をして夢中になった。  ティスタを好きになったわけじゃない、それはなんとも不思議な感覚だった。未来のソアンと話をしているような気分だったのだ、ソアンのことは愛おしい養い子だから、僕はティスタのこともそんなふうにとても大切に扱った。ティスタは重い荷物を持たせてごめんなさいと謝り、でもその代わりに僕の知らない街のいろんな話をしてくれた。 「あのお店がとても美味しいの、ソアンちゃんなら知ってるから一緒に行くといいわ」 「そうなのかい、教えてくれてありがとう」 「口説こうとしない男性から、こんなに親切にしてもらうのは初めてだわ」 「美人も大変なんだね、でもこれだけ綺麗で優しいなら、口説かれるのも無理もない話かもしれない」 「褒めてもらって嬉しいけど、自分より綺麗な方から言われると複雑だわ」 「ティスタよりも綺麗な方? 一体誰のことなんだい??」  僕がそう言うとティスタはまた笑っていた、子どものような無邪気な笑い方だった。さっきまでのどこか垣根があった笑顔ではなく、本当に子どものように楽しそうに笑っていた。ティスタの店まで結構な時間がかかったが、僕はあっという間に時が過ぎてしまった気がした。そうして店につくと今度はティスタは職人の顔をして、直している僕の服を見せてくれた。  僕は大切な服が大事に扱われているのを見て、ティスタが良い職人だとまた彼女を褒めた。そんな僕たちをポエットが楽しそうに見ていた、時々意味深な視線を向けられたのは気のせいだろうか、とにかく僕は楽しい時間を過ごせた。両親が縫ってくれた形見である服が、どれも綺麗に直されているのを見て安心もした。  お昼には僕は宿屋に戻った、ソアンも戻ってきていたので、宿屋の酒場で一緒に昼食を食べた。ソアンにティスタとポエットさんがいる裁縫屋に行ってきたと言うと、ソアンはちょっと僕のことをじいっと見ていた。それから何か言いたげにしていたが、言いだしたことは別に何ということもない、そういつもと同じ会話だった。 「ティスタさんと仲良くなったんですね、リタ様。気をつけないと、さん付けが抜けていますよ」 「ああ、そうなのかな。ティスタと呼んでたかい、礼儀を忘れていたよ、彼女の前では気をつけよう」 「本当に綺麗で気さくな方ですね、ティスタさん」 「ああ、将来はソアンもあんな女性になるのかなと思った」 「わ、私がティスタさんみたいに!? いやそれは無理ですよ、リタ様!!」 「そうかな、ソアンはきっととても美人さんになるよ」  僕は育てた養い子に対して贔屓目ではなく、理論的に考えたすえにそう思って言った。ソアンの母親のファインさんも美人だった、父親の顔を僕は知らないがソアンは顔は母親似だった。だから美人になるよと素直にそう伝えたのだ、ただ身長だけはドワーフの血筋から考えて伸びないかもしれなかった。でも父親はドワーフには珍しい背高さんと聞いていたから、これから伸びる可能性もなくはなかった。 「もしティスタさんに惚れちゃったら、最初に私に教えてくださいね。リタ様」
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