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1-8初ダンジョンに挑戦する
「えー、職業が吟遊詩人って、ダンジョンで一体何の役に立つのよ」
その言葉を聞いたとたんにソアンが殺気を放つのが分かった、咄嗟に僕は彼女の頭を優しく撫でて落ち着いてもらい、僕は怒っていないし傷ついていないよと伝わるように合図した。ソアンはそれでなんとか落ち着いたようだったが、相手の女性の方はまだ不満があったらしく仲間たちに宥められていた。
「フィーネ、ちょっと言い過ぎです。実は凄い魔法が使えるのかもしれません」
「何よステラ、神官だからって良い子発言禁止よ!!ヴァンも余計なこと言わないでよね!!」
「まぁ、まぁ、二人とも彼の方の職業はともかく。このソアンちゃんは凄いよ、あんなに大きな剣の使い手はほとんどいないって評判だ!!」
そういってヴァンという茶色の髪に同じ色の瞳をもつ、片手剣を腰に下げた剣士はソアンを褒めた。そうソアンは凄い子なのだ、村ではハーフエルフだからちょっと近寄り辛いと言われていたが、長く一緒にいればこれほど気がきいて優しい子もいないのだ。そこで僕はヴァンと呼ばれた剣士の評価を上げた、一方でフィーネという緑の髪に同じ色の瞳の女性は当然ながら評価を下げた。ステラという白い髪に赤い瞳の神官の女性は、多分これから僕が魔法が使えないと聞いてがっかりする、だから彼女の評価は難しいところだ。
「私はソアン、こちらはリタ様。リタ様は魔法を使うことを禁じられている、でも凄く頭が良いし短剣使いだけど強い。それで納得ができないようなら、当然だけど一緒には組めない」
「ソアンがそう言うなら、僕はそれでいいよ」
ソアンが僕たちのことを短く簡潔に紹介してくれた、魔法が禁じられているっていうのは嘘だけど、全く魔法が使えないんだから同じようなことだ。ソアンが言った僕たちの自己紹介を聞いて、ヴァンという青年はにっこりと笑顔で頷いた、フィーネは不服そうな顔をしたが何も言わなかった、ステラはちらっと僕のほうを見て次にヴァンの方を見てそれから頷いた。
「少し納得がいかないけど、ヴァンとステラがいいならいいわ。シーフよ、今日はよろしく」
「ステラと申します、神官です。よろしくお願いします」
「俺がヴァン、一応はこのパーティのリーダーになる剣士だ。今日はよろしく頼むよ、ステラちゃんとえっと……、とにかくよっろしく!!」
僕はヴァンというリーダーである冒険者の評価を少し下げた、こいつ僕の名前を覚える気もないようだからだ。ヴァンが興味があるのはソアンだけらしいが、うちの子はよく分からない奴にはあげないからな!! とにかくそれからダンジョンの方に行くことになった、このダンジョンについては冒険者ギルドで調べたが既に調べつくされたダンジョンで、それでも人気があるのは時々ボスが落とすレアアイテムが高価だからだそうだ。その名はフォシルのダンジョン、通称はぷるぷるダンジョンだそうだ。
「それじゃ、今日のリーダーは俺でいいかな?」
「もちろんよ、ヴァン。吟遊詩人ごときじゃ、とてもリーダーになれないわ」
「異議なし、フィーネの発言は失礼ですけれど、リーダーはヴァンでいいと思います」
「僕もいいよ、リーダーなんて向いてないし」
「ううぅ、リタ様がいいなら、いいです。……チッ」
リーダーはもちろんパーティの司令塔だ、今回はあっちのほうが数が多いわけだし、お手並み拝見といくとしよう。剣士に神官、それにシーフと三人だがバランスのいい組み合わせだ。僕も魔法が使えればソアンと組んで遜色がないと言えるのだが、使えなくなったものは仕方がないので言わないことにする。それに今日はダンジョンというのがどういう場所なのか見るだけだ、受付のお姉さんにもそう言ったしそれでパーティを選んでくれたはずだ、多分。
そうしていってみたダンジョンは石造りの遺跡のような場所だった、昔の住居だと言われても納得がいくだろうが、このダンジョンが何故ここにあるのかは分かっていないらしい。
「よし、行くぞ!!目指すはボスだ!!」
「そうよ、ヴァン。ボスが落とすはずのお宝が全てよ!!」
「フィーネ、ヴァン、一応は小手調べが目的です」
「あれ、ソアン。なんか聞いた話と違わない?」
「はぁ~、私はなんだか嫌な予感がしてきました。リタ様」
ちょっと聞いていた話と違う目的でパーティの三人はダンジョンに入っていった、僕たちも慌てて追いかけるが大丈夫なんだろうか。ダンジョンの中は暗いので神官のステラが『永き灯』の魔法を使っていた、僕が用意しておいた松明には出番が無いようだ。
なんだか作られた遺跡のようなダンジョンは人が5人並んでも通れそうな広さがあった、そもそもダンジョンというもの自体が過去の遺跡であることが多く、今では再現できない失われた魔法を使って維持されていることがあるのだ。湧いて出るモンスターは後から住み着いたものや、元々防衛機能として用意されたものとの二つに分かれる。今回はどっちなのだろうか、遺跡のようだから元々防衛機能として配置されたモンスターなのかもしれない。
しばらくすすむとスライムが何匹か現れた、ただのぷよぷよとしたモンスターだと侮ってはいけない、こう見えて酸を吐いてくる個体がいることもある。それにこのぷよぷよとしたスライムが頭にくっついて、毎年それで溺死する冒険者がいるというから怖い話だ。
僕は用意していたこん棒もどきで、ソアンは大剣でスライムを薙ぎ払った、そうすると魔石が落ちるので僕は革袋にそれを拾っていった。向こうの三人はヴァン一人だけがスライムと戦っていた、後衛の神官であるステラはともかくシーフのフィーネもあくびなどかいていた。
「はははっ、スライムごときこのヴァン様にかかればこんなもんさ!! さぁソアンちゃん、俺を見てるかい!!」
「ヴァンったらすごーい、頑張って!!」
「酸に気をつけてください、何かあった時は私が回復魔法を使います」
「ソアン、大丈夫かい?」
「はい、リタ様こそ大丈夫ですか?……はい、見ています。ヴァンさん、一応は目が汚れそうですが見ています」
僕たちは時々現れるスライムを倒しながら淡々とダンジョンを進んでいった、するとちょっとスライムでない敵が出てきた。デビルラットたちだ、簡単にいうと魔力にあてられて魔物化したねずみだ。僕はその素早い動きを警戒しつつ、目の前に飛びかかってきたら短剣で斬り払った。ソアンも同じように大剣を軽々と振るい、デビルラットたちを地面に叩きつけた。
ふとヴァン達に目をやるとまたヴァン一人が戦っていた、フィーネは攻撃されても避けるだけ、神官のステラはヴァンの影に隠れるようにしていた。僕がいうのもなんだがなんか奇妙なパーティだな、普通は魔物に襲われたら、パーティ全員で戦うものではないのだろうか。
「ソアン、疲れてないかい?」
「はい、私は大丈夫です。リタ様こそ、疲れたらすぐに言ってくださいね」
僕たちはお互いを気遣いつつ戦闘を繰り返し、あっという間にダンジョンを踏破していった。初めて来たがこのダンジョンは曲がりくねっていたり、確かに意味のない分かれ道があったりしたが、そんなに難しくない作りで初心者向けだというのがよく分かった。ぷよぷよときりもなく現れるスライムのおかげで、僕たちはしばらく魔石には困らないだろう、ただ今回だけだろうが組んだ向こうのパーティはヴァン一人だけが疲労していた。
「さぁ、行くぞ。はぁ、はぁ、とうとうボス部屋だ!!」
「ヴァンったら凄いわ、さーてとあたしも本気を出せるわね」
「フィーネ、ヴァン。くれぐれも注意してください、使える回復魔法にも限りがあります」
「……ソアン、怪我をしたら駄目だよ。怪我をするくらいなら逃げるくらいの気持ちで行こう」
「はい、分かりました。リタ様もお怪我をしないように気をつけてください」
このパーティは駄目だ、完全に二つに分かれている。おそらく僕が怪我をしたとしても、向こうの神官であるステラが回復魔法を使ってくれる可能性は低い。ソアンを気に入っているヴァンはまだともかく、それ以外の女性は攻撃してこない空気のようなものだった。そして現れたのは話にきいていたのは大きなスライムのはずだったのだが、実際にボス部屋に入ってみて現れたのは数体のゾンビだった。
「えっ!? どうしてゾンビが、よく分からないけどソアン誘導してくれ」
「はい、わかりました。リタ様。ゾンビを斬るのは嫌ですからね、せっかくお父さんが作ってくれた剣が汚れます」
ボス部屋で現れたゾンビたちに驚いているのは僕たちだけじゃなくて、ヴァン達のパーティもだったしそれもまた酷かった。彼らは戦おうとせずにすぐに逃げ出したのだ、ゾンビは確かに嫌な相手だが冷静になればそんなに強い敵ではないはずなのにだ。
「嫌あぁぁぁ、あたしゾンビの相手はしないから!! 死んでる相手は別なんだから!!」
「神官としてお気の毒な方々に祈りは捧げます、ですがそれは相手が動かなくなってからです!!」
「ぎゃあああぁぁぁ!! ゾンビなんて俺は何も聞いてないぞ!!」
そう口々に言いながら逃げていったヴァン達は放っておいて、僕たちはソアンが上手くゾンビを誘導して一カ所に集まるようにして、僕が火炎玉を使ってゾンビたちを燃やしてしまった。『火炎球』くらいの威力があるというのは本当だった、ゾンビの数体なら集まってくれれば火炎玉が1個で片付いた。さてゾンビの魔石は生きていた頃の経験で変わってくるらしい、拾ってみたがわりと大きくてスライムよりはお金になりそうだった。
「でもどうしてスライムじゃなくてゾンビがいるんだろう、ソアン何か変わったものはあるかい?」
「いえ、特におかしなものはありません。でもこのゾンビたち装備が充実してますね」
「あっ、そうだね。剣士たちに魔法使い、それにシーフかな」
「燃え残った武器は貰っていきましょう、中古ですが売ればそれなりの値段になります」
「そうだね、そして世界の理に帰った戦士たちに心からの敬意を捧げよう」
「はい、世界の理に戻り、安らかなる眠りを得られますように」
エルフは基本的に死んでしまったら、世界の大きな光に魂は戻っていくと考えているんだ。そこで地上で得た良いものや悪いものは浄化されて消えてしまい、またエルフとして生まれ変わったり、時には森の木々などになるのだと信じているんだ。実際のところは僕はまだ死んでないから分からないけれど、人間もきっと同じようなものだと僕は思っていた。しかし、生きている人間はいろいろと違っているようだ。僕たちがダンジョンのボス部屋から、焼け残った様々な武器を回収して街に帰ってきたら、とっくに冒険者ギルドに帰ってきていたヴァンたちからこう言われた。
「おいっ!! この死体あさり!! なんて恥ずかしい男なんだ!!」
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