闘魂物語

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「俺はプロレスラーになりたい。」 「プロレスラー?なりたい?なりたかった、でしょ?」 私の話を聞いて、妻の淳子は呆気に取られているようだった。それも無理はない。私は既に齢45の中年のオッサンだからである。私の45回目の誕生日を祝う夜妻がふいに、小さい頃何になりたかったか、という質問を投げかけてきた。それに対する答えとして私は続けた。 「俺は小さい頃アントニオ猪木に憧れていたんだ。闘魂が大好きだった。小さい頃からあんなかっこいいプロレスラーになりたいと思ってたんだ。今もスクワットをして基礎体力をつけてるし、レスリングも細々とだけどやり続けている。プロレスってやっぱり夢があるんだよ。日常生活に疲れた人達に非日常を楽しんでもらう、って言うのかな。レスラーは誰にでも出来るものじゃないんだ。もっと若い頃にチャレンジすれば良かったんだけど。勇気がなかったんだよな。条件が厳しかったから諦めざるをえなかったんだ。」 「でもさ、年齢が・・・」 妻の言葉を遮るように私は続けた。 「勿論、年齢的にも厳しいことは重々理解しているつもりだよ。でもね、あるプロレスラーが言ってたんだ。年齢は関係ないって。俺はその言葉で勇気と希望をもらったんだよ。やる気さえあれば俺にも出来るんじゃないかって。」 あるプロジェクト番組が某テレビ局にて始まった。それは現役プロレスラーが、プロレス団体に入団希望の者を直に育成するというものだった。番組の中でそのプロレスラーは確かにそのように言っていた。実際に、それまであった年齢制限や身長の制限といった入団条件を撤廃したらしい。 「ふーん、そんなにやる気があるなら挑戦してみるのもいいかもね。夢を持つって大切なことよ。よし、頑張れ。」 妻に背中を押してもらった。こうして奇しくも45歳の誕生日に人生の転換期を迎えることになった。中年男の闘魂物語が正に始まろうとしていた。
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