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観覧車のなかは異様な沈黙で満たされていた。いたたまれない、張りつめた空気。奇妙なしずけさ。
ただ、そう思っているのはあたしだけみたいだけれど。眼のまえの彼は平然としたようすでスマホゲームに集中している。この現状に、あたしたちのこれからについて、まったく危機感を持っていない。
「ねえ、ちょっと」
「んー?」
「どう思う、これ」
「どうって、何が?」
「このままでいいと思ってるの?」
ようやく彼は顔をあげ、窓から外を眺める。ありふれた日常がながれる、何の変哲もない世界を。
「いいも何も、しかたのないことだよ」
そう言って、彼はまたスマホゲームをはじめる。あたしはため息を洩らす。ほんとに、いつから失ってしまったんだろう? いつの間にか、外は薄暗くなってきている。もうすぐ夜になってしまう。
あたしたちは、かれこれ4時間、この観覧車に閉じこめられている。
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