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お嫁さんになりたい
お嫁さんになりたい。
そう言い続けて十七年。
もう日課になっているその言葉を、今日も俺は「隣の家のお兄ちゃん」に伝えた。
「お兄ちゃん! 今日こそ俺をお嫁さんにして! 結婚して!」
「ん。良いよ」
「……はい?」
あれ?
おかしいな。
いつもなら軽く流されて終わる会話なのに。
今日のお兄ちゃんは、なんか違う。
「あの……お兄ちゃん?」
「ふふ、何、その顔」
お兄ちゃんは柔らかく笑うと、スーツの上着のポケットからシルバーのネックレスを取り出した。そこにぶら下がっているのは、オシャレな指輪。それを俺の手にぎゅっと握らせた。
「二十歳の誕生日、おめでとう」
「あ、ありがとう」
「お前も成人したし、今日は俺の大学の卒業式だし」
お兄ちゃんは、俺の頭をぽんぽんと撫でる。
「俺、就職決まった時に部屋を契約したんだ」
「……ひとり暮らし?」
「そう、って頷くと思う?」
「どういう意味……?」
「春から、一緒に住みませんか? ちょっと早い新婚生活」
俺は目を見開く。
そんな、なにこれ、夢……?
ずっと、お兄ちゃんのことが好きだったけど、向こうはそんな態度を見せてくれなかったのに……。
「俺、男だよ?」
「知ってるよ」
「可愛くないし、馬鹿だし、それに……」
「全部、知ってる」
お兄ちゃんは、そっと俺を抱き寄せた。
ここ、玄関だからいつ誰に見られるかも……なんて考えはぶっ飛んでしまった。
ずっと欲しかったぬくもりに包まれて、俺は嬉しくなって目を閉じる。
「ね、いつから思ってたの?」
「うん?」
「俺のこと、お嫁さんにって……」
「そりゃお前、子供のころからプロポーズされ続けてたら自然に意識するだろ」
お兄ちゃんは苦笑しながら言う。
「お前は世界一可愛いよ。可愛い、俺のお嫁さん?」
「っ……」
ストレートな言葉に赤面する。
格好良い。俺の……旦那様。
この先もずっと、一緒にいようね?
「お前が二十歳になるまで我慢してたんだぞ?」
「そうなの!?」
お兄ちゃんが気持ちを隠すのが上手いのか、俺が鈍いだけなのか。
ま、どっちでも良いや。
「お兄ちゃん、大好き」
そう伝えるとお兄ちゃんは、少しだけ照れくさそうに笑って「俺も、好き」と、優しいキスをしてくれたのだった。
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