9、良い先生?①

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「よお、楓」 「あ、蒼真く……え?」 朝一の教室で声を掛けられて、その方を見た楓は困惑した。 その声は確かに友人の北條蒼真のはずなのだが、黒髪でピアスもなく制服をきっちりと着込んでいるその様は、楓の知る北條蒼真ではなかった。 「どうよ。昨日言った通り、変えてきたんだよ」 「すごい」 「すごい?」 「全然印象が違うなぁって」 「はは、まあな」 「でも、秀才風イケメンって感じで良いね」 「お、そうか?」 「羨ましいなあ。  蒼真くん、元がカッコいいからどんなファッションでも似合うんだね」 「だから、面と向かって言われると照れるんだってば」 ぽりぽりと頭をかきながら蒼真が笑う。 すると、クラスの女子たちが寄ってきて、キャーキャーと騒ぎ始めた。 「北條くん、どうしちゃったの? 真面目スタイル?」 「うわー、似合うじゃん。カッコいい!」 「ねえねえ、私、北條くんの彼女に立候補して良い?」 「ちょっとー! 抜け駆けは無しって言ったじゃん」 「お、おい……ちょっと、離れてくれって……」 数人の女子たちが蒼真に群がり、楓は弾かれるようにして追い出された。 少し離れた場所から、女子たちに言い寄られてたじろぐ蒼真を見守る。 苦笑いを浮かべていたところ、背後から声を掛けられた。 「藤咲」 「あ、先生」 振り返ると、バインダーを手に持った中岡が立っていた。 中岡は不思議なものでも見るような目で教室の中を見つめる。 「あれは北條か?」 「はい。真面目に見えるようにしてきたみたいです」 「ほう。あいつがね」 「きっと、先生の指導が良かったんですよ」 「ふふ、君は人を乗せるのが上手いな」 少しだけ広角を上げて楓の肩に手を置く。 それから中岡はスタスタと立ち去っていった。
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