10、良い先生?②

1/2
前へ
/90ページ
次へ

10、良い先生?②

放課後。 今日も楓は担任の中岡の下で補習授業を受けていた。 「うんうん、そうだ。それで良い」 「は、はい」 着実に課題をこなす楓に、中岡が満足げに笑う。 そして彼の努力を労うようにポンポンと軽く肩を叩いた。 こうやって体に触れられるのは何度目だろうか。 頭を撫でられたり、肩に手を置かれたり、腕に触られたり…… 彼なりの親しみ表現なんだろうと思ってはいるが、 楓は少しばかり居心地の悪さを覚えていた。 (気を遣ってくれてるんだろうから、悪く思っちゃ駄目だ) そうやって自分を戒める。 しかし、他人に安易に触られると、どうしても事件のことが頭によぎってしまう。 浦坂実によって拉致されて暴行を受けていた時の記憶が。 (蒼真くんが言っていたことを気にしてるのかも) 今朝、友人の蒼真から聞かされた中岡の過去。 反抗的な生徒に対して手を上げたことがあるらしいとの噂話。 暴力に対して重いトラウマを抱えている楓は、神経質にならざるを得なかった。 「藤咲?」 「えっ……」 ぼんやりとしていたところ、頬に冷たい感触が当てられる。 中岡に手を当てられていたのだ。 そのことに気付き、楓は思わず目を見開く。 「どうした? 顔色が悪いな」 「そ、そうですか?」 中岡は険しい顔の中に心配の色を帯びていた。 「体調が悪いようなら、今日はここまでにしておこうか」 「はい。すみません」 「謝ることじゃない」 「でも、僕の為にわざわざ時間を作ってもらってるのに」 「気にするな。教師として当然のことだ」 「ありがとうございます」 体に触れられることへの違和感が拭えないが、それでも中岡への感謝の気持ちが湧き上がる。 それと同時に申し訳ない気持ちも。 (やっぱり、あれはただの噂だよね。  こんなに良くしてくれてるのに、穿った目で見て悪かったなぁ) 罪悪感からか、目を伏せてしまう。 「じゃあ、気を付けて帰るように……と言いたいところだが」 「?」 「まともに帰れるか? 体が辛いようなら私の車で家まで送るが」 「いいえ、大丈夫です。そこまで先生に迷惑はかけられませんから」 「そうか。まあ良い。助けが必要ならいつでも言いなさい」 「はい。ありがとうございます」
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加