10、良い先生?②

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少し残念そうに顔を曇らせて、中岡は教室を出て行った。 一人になった途端、楓は大きく息をつく。 体から力が抜ける思いを自覚して、それまで自分が緊張していたことを知る。 心拍数も上がっていた。 こうなると、何もないのに全身が不安感でいっぱいになってしまう。 精神を安定させる薬を飲みたいところだが、副作用として酩酊状態になってしまう。 だから、ここで飲むことはできない。 「はあ……はあ……」 鼓動と不安感を落ち着かせようと呼吸を整える。 そんな中、楓は服の中に隠していたネックレスを取り出した。 鎖にかけられている指輪を握り締める。 “お守り”として康介から貰い受けた指輪だった。 (大丈夫。大丈夫。これがあるから大丈夫) 指輪を握り締めると康介に守られているような気分になるのだ。 やがて心拍数も呼吸も落ち着きを取り戻してゆく。 「よし、もう帰ろう」 まだ完全に落ち着いたわけではなかったが、楓は立ち上がって教室を出ることにした。 今日こそは康介よりも先に帰って、ちゃんと「お帰りなさい」を言いたい。 その思いが、彼に少しばかり無理をさせた。
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