11、トラウマを抉る者*

3/3
前へ
/90ページ
次へ
「おい、やめろ!」 突如、険しい顔つきの細身の男が現れた。中岡だった。 「何だ、テメェは」 「その子の担任の教師だ。私の生徒に乱暴な真似をすることは許さん」 「ああ⁉︎」 「警察に通報してやる。逃げるなら今の内だぞ」 これ見よがしに携帯端末を取り出す。 すると、男は焦ったような顔になり楓から手を離した。 「チッ! クソがっ!」 悪態をつきつつ、男は逃げるように駆けだした。 停めていた車に乗り込み急発進する。 それを見届けてから、中岡は倒れていた楓を抱き起した。 「藤咲、大丈夫か?」 声を掛けて軽く揺さぶってみるが、楓は何も返さなかった。 放心したようにぼんやりと目を開けたまま、カタカタと震えている。 「藤咲? おい、藤咲!」 少し強めに呼びかけた時、楓の目がパタリと閉じられた。気を失ったのだった。 気を失っても尚、その体は小刻みに震え続けていた。  「救急車を呼ばないと」 中岡は懐に手を入れて携帯端末を取り出そうとする。 が、一旦それをやめてハンカチを取り出した。 白いハンカチで楓の口元の血を拭い、それから改めて携帯端末を取り出した。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加