12、助けてくれた人

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病室にて、楓は静かに眠っていた。 その腕には太い管が刺さっている。点滴を受けているのだ。 付き添いの中岡が傍に座り、その様子を見守っている。 そっと手を伸ばし、青白い頬に触れようとしたその時、病室の扉がけたたましい音を立てて開かれた。 「楓っ!」 血相を変えた康介が慌てた様子で室内に駆け込んできた。 「楓、無事か? 無事なのか?」 焦る気持ちそのままに楓の体を揺さぶる。 乱暴な手つきに、思わず中岡が止めに入った。 「藤咲さん、落ち着いて下さい」 「楓、目を開けてくれ!」 「今は薬の影響で眠っているだけです。いずれ目を覚ましますから」 中岡に腕を掴まれながら諭されて、康介はようやく冷静さを取り戻す。 「ああ……そうでしたか。すみません」 「落ち着かれましたか」 「はい。恥ずかしいところを見られてしまいましたね」 「いや。先の事件のこともあるわけですし、心配するのは当然ですよ」 「そう言って頂けると助かります。中岡先生」 楓の頭をひと撫でしてから、康介は中岡に向かい合った。 「先生が楓を助けてくれたんですよね」 「ええ、まあ……」 「ありがとうございました」 「いいえ、当然のことをしたまでですから」 「何があったのか詳しくお聞きしても良いですか?」 「ええ、もちろん」 父親としての顔から一変して刑事の顔になる。 そんな康介を目の当たりにして、中岡は少し緊張気味に事の次第を説明した。 帰宅途中の道で楓は体調を悪くした。 近くにあった公園のベンチで休んでいたところ、不審な男に声を掛けられた。 その男によって車に連れ込まれそうになったが楓は拒絶した。 その結果、男に腹部を殴られて無理やり連れて行かれそうになっていた。 「その時に先生が助けに入ってくれたんですね」 「はい」 「逃げた男の顔は覚えてますか?」 「はい。半グレじみたガラの悪い男でしたね。実際、すぐに暴力を振るってましたし」 「暴力を……」 楓が殴られたことを思い、康介の目に冷たい怒りが宿る。 「体つきは大きくでっぷりとしていました」 「なるほど」 「ああそうだ、奴が乗っていた白いワゴン車なんですがね」 「白いワゴン車、だったんですか」 「ええ。車のナンバーをメモしておいたんです」 「それは助かります」 「どうぞ、役立てて下さい」 「ありがとうございます」 康介が中岡からメモ用紙を受け取った時、その背後から小さな呻き声が聞こえた。
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