12、助けてくれた人

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「う……」 「楓!」 いち早く気付いた康介が駆け寄る。 目を開けた楓は、途端に上体を起こした。 怯えたような顔で身を縮こまらせる。その体はカタカタと震えていた。 現状が認識できておらず混乱しているのだと判断し、康介は包み込むようにして楓を抱き締めた。 「大丈夫。ここは病院だから。安心するんだぞ。な?」 「う……ん……」 「点滴が終わったらすぐに家に帰れるから。一緒に帰ろうな」 「……うん」 康介の腕の中で楓は少しずつ落ち着きを取り戻してゆく。 よしよしと軽く頭を撫でてから、康介は一旦楓から腕を離した。 そして中岡の方に向き直る。 その時の康介は、ついさっきまでと同じく刑事の顔をしていた。 「先生、今日はありがとうございました。後のことはこちらにお任せ下さい」 楓のことは父親としての自分に。 事件のことは刑事としての自分に。 それらの思いを込めて、康介は中岡に礼を言いながら頭を下げた。 帰るように促されていることを察して、中岡も軽く頭を下げた。 「では、私はこれで。……どうぞお大事に」 無理に食い下がる理由も無いので、中岡は素直に立ち去ることにした。 病室を出て、扉を閉めて、うっすら聞こえてくる声に耳をそば立てる。 そんな中、懐にしまっていたハンカチを取り出した。 さっき、楓の口元を汚していた血を拭ったものだった。 「…………」 白い布を彩る鮮血をじっと見つめる。 それから、ハンカチを再び懐に仕舞い込んで、中岡はその場を後にした。
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