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「何だ、これは」
破られたシャツの下、晒された肌の上には、細い鎖が銀色に光っていた。
楓の首に掛けられていたネックレス……その先端にある指輪を見て、中岡は目に怒りを宿した。
「プラチナじゃないか。こんな高いものを、一体誰に貰ったんだ?」
「それは……」
「既に心に決めた相手でもいるのか? そいつに貰ったのか?」
「そ、それは……」
「そうか、父親だな」
「──!」
「あの男の君を見る目は異常だったからな」
「なっ……」
「私には分かるんだ。あいつは父親ヅラしたケダモノだ」
「康介さんを侮辱しないで下さい!」
中岡の言葉に、思わず楓は反論した。
珍しく目を吊り上げて怒りを顕にする。
が、その直後、逆上した中岡によって頬を打たれた。
そして中岡は指輪を掴み取り、力任せに鎖を引きちぎる。
「こんなもの、捨ててやる」
奪い取った指輪を睨みつけて憎々しげに呟く。
ベッドから降りて、すぐ側の窓を開けた。
途端に冷気が部屋の中に押し寄せる。
その時、中岡は背後からその腕を掴まれた。
「やめて! 返して下さい。その指輪だけは……!」
楓だった。
慌ててベッドから降りた楓が、指輪を取り返そうと必死になって中岡の腕に掴みかかっていたのだ。
その行為は中岡を酷く苛立たせた。
「黙れ!」
「ぎゃっ……」
怒鳴ったかと思うと、中岡は腕に絡みつく楓を乱暴に振り払った。
更に、床に崩れ落ちた楓の腹に何発か蹴りを入れる。
「大人しくしてろ!」
「あぐっ……やめ……」
動かなくなった楓にもう一発蹴りを入れて、中岡は改めて窓の前に立つ。
そして、外に向かって手の中の指輪を放り投げた。
「あ……」
真っ暗な空の下に指輪が消えてゆく。
その様をただ見つめることしかできず、楓はボロボロと涙を流した。
心の拠り所を失った思いだった。
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