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23、本性②*
「えっ?」
ぶつかった事でクローゼットの扉が開いた。
すると楓の目の前に人が転がってきた。
自分とそんなに歳の変わらないような女の子だった。
ぼんやりと開かれた彼女の目には生気が無かった。
「し、死ん……で……る……?」
信じられないものを目の当たりにして楓は大きく目を見開く。
呼吸も鼓動も性急を超えてもはやコントロールがきかない。
驚愕と恐怖でいっぱいになる。
もう本当に訳がわからなかった。
そんな中、中岡が楓のすぐ後ろに立っていた。
「彼女はね、君の代わりだったんだよ」
「え?」
「顔をよく見てごらん。似てるだろう、君と」
「う……」
「何ヶ月も、君の代わりとして相手をしてもらっていたんだがね。
生憎、彼女が似ていたのは見た目だけ。中身は似ても似つかない悪い子だったよ。
悪い子だから、少しばかりお仕置きをしたんだが……まさか死ぬとはね」
やれやれとため息混じりに中岡は言う。
人を殺した人間の反応とは思えないぐらい、事も無げだった。
目の前に転がる死体、真後ろに佇む狂人。その恐ろしさに楓は口を押さえて耐える。
押さえるその手はカタカタと震えていた。
「でも、本物を手に入れた今はもうどうでも良いか」
しゃがみ込んだ中岡が楓の肩に手を置き、彼の耳元で囁く。
「君は良い子だから、大丈夫だよ。良い子にはお仕置きなんかしないからね」
優しい口調で紡がれる脅しの言葉。
蹲って震えている楓の頭を撫でながら、中岡は尚も笑い続ける。
「ああ、確かにいつまでもここにあると邪魔だよねえ。分かってるよ。
祖父が持っていた田舎の土地があるから、そこで処分しておくよ。
明日は土曜日だから、ちょうど良い。君は良い子でお留守番しておくんだよ」
「い、いや……いやだっ……!」
なけなしの勇気と力を振り絞って、楓は中岡の手を振り払った。
立ち上がり、駆け出す。
寝室を抜けリビングへ。
リビングを抜けた先には玄関がある。
フラフラとした足取りでそこを目指した。
そうして玄関扉の手前にまで辿り着いた時、急に足腰に力が入らなくなった。
ガクンとその場に膝を折る。
(あと少し、あと少しだから……!)
背後から中岡が迫ってくる恐怖に怯えながら、扉に向かって懸命に手を伸ばす。
──その時、インターホンが鳴った。
誰かが訪ねてきたのだ。
それは、楓にとって天からの助けのように思えた。
(良かった。声を上げて助けを求めよう)
掴み掛けた希望の光。
扉を隔てた先にいる誰かに向かって声を上げようとしたその時──
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