37人が本棚に入れています
本棚に追加
24、本性③*
「んうっ……」
突如、楓は背後から口を塞がれた。
中岡だった。
背後から抱き竦め、その手で楓の口を押さえていた。
「声を出すなよ」
耳元で中岡が低く囁く。
彼のもう一方の手には包丁が握られていた。
楓は恐怖で硬直する。
そんな中、もう一度インターホンが鳴った。
沈黙を通していると、次に扉を叩く音が響いた。
「中岡さん。警察の者です」
「──!」
思わず楓の体が反応する。
ノックとともに掛けられた声、それは康介のものだったのだ。
ピクリと動いた楓の喉に、チクリと小さな痛みが走る。
中岡が握る包丁の切っ先が僅かに刺さっていた。
「少しお話を伺いたいのですが、おられませんか?」
更に何度かノックを繰り返す。
それから、扉の向こうで誰かと何かを話している様子が窺い知れた。
扉越しに「仕方ない。行こう」との言葉が聞こえた時、楓の目から涙が零れ落ちた。
僅かな希望が絶たれた瞬間だった。
遠ざかる足音を聞きながら、楓は静かに涙を流した。
やがて訪れる静寂。
最初のコメントを投稿しよう!