24、本性③*

1/2
前へ
/90ページ
次へ

24、本性③*

「んうっ……」 突如、楓は背後から口を塞がれた。 中岡だった。 背後から抱き竦め、その手で楓の口を押さえていた。 「声を出すなよ」 耳元で中岡が低く囁く。 彼のもう一方の手には包丁が握られていた。 楓は恐怖で硬直する。 そんな中、もう一度インターホンが鳴った。 沈黙を通していると、次に扉を叩く音が響いた。 「中岡さん。警察の者です」 「──!」 思わず楓の体が反応する。 ノックとともに掛けられた声、それは康介のものだったのだ。 ピクリと動いた楓の喉に、チクリと小さな痛みが走る。 中岡が握る包丁の切っ先が僅かに刺さっていた。 「少しお話を伺いたいのですが、おられませんか?」 更に何度かノックを繰り返す。 それから、扉の向こうで誰かと何かを話している様子が窺い知れた。 扉越しに「仕方ない。行こう」との言葉が聞こえた時、楓の目から涙が零れ落ちた。 僅かな希望が絶たれた瞬間だった。 遠ざかる足音を聞きながら、楓は静かに涙を流した。 やがて訪れる静寂。
/90ページ

最初のコメントを投稿しよう!

37人が本棚に入れています
本棚に追加