24、本性③*

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「ふう。行ったようだな」 招かれざる客が立ち去ったことを確信して、中岡は息をつく。 それから、腕に抱えていた楓を乱暴に引き倒した。 「あうっ……」 強かに床に体を打ち付けられて、痛みに呻く。 そのまま楓は中岡によって組み敷かれる格好になった。 「やれやれ。君は良い子だが……少しばかり躾が必要みたいだな」 「何を……」 躾と聞いて楓の体がビクリと震える。 次の瞬間、乾いた音が響き、頰に衝撃が走った。 「あの部屋から出ることは許さない、そう言ったはずだ」 少し語気を強めて怒りを表す。 そして中岡は平手でもう一度楓の頬を打った。 「や、やめて……」 「抵抗するな!」 「あ……」 相手が思い通りにならないことに苛立ち、中岡は渾身の力を込めて楓を殴った。 更に床に放置されていた包丁を手に取る。 高々と掲げられた刃が鈍く光った。 そして勢いよく振り下ろされる。 振り下ろされた刃は、楓の顔を掠めて床に深々と突き刺さった。 「…………」 楓は目を閉じたまま何も反応しない。 「おい」 軽く揺さぶってみるが、されるがままになるだけだった。 殴られた拍子に頭を打って気絶したのだろうか。 それとも、振り上げられた包丁を前にして恐怖から気を失ったのか。 なんにせよ、楓は中岡に対して一切の抵抗も見せず、人形のように動かなくなった。 「ああ、素直になったね。良い子だ。やっぱり君は良い子だなあ」 満足そうに笑い、中岡は意識の無い楓を抱き締めた。 よしよしと頭を撫でる。 それから頰に触れた。 何度か打たれて赤くなった頬を慈しむような手つきで撫で回した。 「ふふふ、私のものだ。楓、君はもう私のものなんだ」 歪んだ愛情が迸る中岡の目に、楓の首筋が映る。 白く艶かしい肌に誘われるままに、中岡はその首筋に唇を押し当てた。 舌を這わせてじっくりと味わう。 支配欲が満たされる一方で、もっと欲しいもっと味わいたいという渇望が湧き上がる。 堪らず、その首筋に歯を立てた。 「うっ……」 楓の体がピクンと跳ねて小さな悲鳴を漏らす。 しかし、目は固く閉じられたままだった。 抵抗が無いことに気を良くした中岡は、今度は楓の首筋に齧り付いた。 破れた皮膚から血が噴き出る。 更に舌を這わせると、口いっぱいに血の味が広がった。 「美味い。美味い。最高だ……!」 狂った笑みを浮かべ、中岡は夢中で楓の首筋に吸い付いた。 あまりにも夢中になり過ぎていた。 だから、背後の物音にも気付かなかった。
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