25、追跡①

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「…………」 運転を高倍に任せつつ、康介は自身の携帯端末を開く。 楓からの連絡を確認したかった……のだが。 (無いな) 電話もメッセージも、さっき康介が送ったままになっていた。 (補習はとっくに終わってるから、普通に考えれば気付かないはずが無いんだが) 友達と遊んでいて電話に気付かなかった──なら、それはそれで構わない。 だが、楓は補習があると嘯いて遊びに行くような子じゃない。 (津木恋月は、親の前では真面目な良い子として振る舞ってたが……。  いや、楓に限っては絶対にそんな子じゃない) では、なぜ楓は康介からの連絡に何も返さないのだろうか。 (何かあったのか? どこかで倒れた? 事件が事故に巻き込まれた?) 仕事柄、最悪の事態を想定することが癖になっているらしい。 康介は自分の思考回路に呆れ、小さくため息をついた。 「さっきから、よくため息をついてますね」 「え? そうだったか」 「しかも、ずっとスマホを気にしてるし」 「ああ、まあ……」 「楓くん絡みのことですか?」 「何で分かった?」 「藤咲さん、楓くんのことになるとすぐに雰囲気が変わりますから」 言い当てられて驚く康介に対し、高倍が苦笑する。 康介の態度は、運転中の高倍にすら分かってしまうほどにあからさまだった。 それなのに、当の本人は全く気付いてないらしい。 「でもまあ、今回は中岡が楓くんの担任だということもありますから。  心配になるのも当然ですよね」 「そうなんだよなあ。俺自身、中岡にはちょっと引っ掛かることもあるし」 「引っ掛かること?」 「ああ。話せば長くなるから割愛するが、中岡は警戒するべき相手だと思う」 「そうですね。高校教師でありながら、女子高生を買ってたわけですからね」 「ああ」 「そういえば、中岡恭志の過去について少し調べたんですけど、  奴は過去に何度か問題を起こしてますね。いずれも、生徒への暴行で」 「そうなのか?」 「ええ。学校側は行き過ぎた指導だったと被害者に謝罪して、  警察沙汰にはしなかったようですが」 「へえ。見た目からはそういう印象は受けなかったが、分からんものだな」 「基本的には大人しいタイプなんですが、  自分の思い通りにならないと豹変するっぽいですね」 「あー……支配欲が強いのか。DVとかやってそうだな」 「既にやってますよ。5年前、妻子へのDVが原因で離婚してます」 「まじか。ますます、楓とは関わらせたくない奴だ」 中岡恭志について、知れば知るほど碌でもない事実が浮上してくる。 (ここ数日、楓は中岡の元で補習を受けていたはずだが、本当に大丈夫だったのか?) またもや、康介は刑事ではなく父親の顔になっていた。 そんな彼に気付き、高倍はやれやれと呆れながら微笑むのだった。
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