26、追跡②

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「ん?」 車に乗り込もうとドアに手を掛けた時、康介はふと足元に光る何かに気付いた。 拾い上げてみると、それは指輪だった。 「この指輪……」 似てると思った。 10年間、康介が左手の薬指につけていたものに。 少し前に、康介が楓に“お守り”として渡したものに。 (まさかな……) 似たようなデザインの指輪なんていくらでもある。 誰かの落とし物だろう。 そう思って康介は指輪の内側を確認した。 「えっ……⁉︎」 途端にその顔が険しさで固まる。 内側には『Kaede』の刻印があったのだ。 康介が幼い楓を引き取った時、彼の親になることを誓い特別に刻み付けたものだった。 つまりこれは、今は楓が持っているはずの指輪なのだ。 (何でこんな所に落ちてたんだ?) 楓は指輪を鎖に通して、それを常に首に掛けるようにしていた。 指輪だけが落ちていたということは、わざわざ鎖から外して捨てたことになる。 楓がそんなことをするはずがない。 それに、楓はこんな場所に縁が無いはずだ。 (いや、このアパートに住む中岡とは縁があるか……) そう思った瞬間、康介の頭の中に嫌な予感が駆け巡る。 中岡は津木恋月を買っていた。 彼女の外見は楓に似ていた。 行為の最中、中岡は『カエデ』と呼んでいた。 中岡は楓の前では良い教師の面を見せていたが、下心を持って近付いていた疑惑がある。 奴が本当に手中に収めたかったのは楓だった可能性が高い。 そして、ここに落ちていた指輪。 楓が肌身離さず持っていたはずの指輪。 それに、彼と一向に連絡が取れない今の状況。 「…………」 康介はアパートの2階を見上げた。 ちょうど、中岡の部屋の窓のあたりを。 カーテンで覆われた窓の隙間から、僅かだが光が漏れているのが見えた。
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