26、追跡②

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「どうしたんですか、藤咲さん」 いつまでも車に乗り込まない康介に業を煮やした高倍が訝しい顔で声を掛ける。 アパートの2階を見上げたまま、康介は答えた。 「……ここだ!」 「え?」 「ここに楓がいる。中岡の監視下にあるんだ」 「え、ちょっと? 藤咲さん⁉︎」 高倍が止めるのも聞かずに、康介は駆け出した。 階段を昇り、再び中岡の部屋へ。 「でも、さっき何の反応も無かったですし」 「居る。絶対に!」 「でも……」 高倍の静止を無視して康介は中岡の部屋の扉を叩いた。強い力で、乱暴に。 「中岡、開けろ! そこに居るのは分かってる」 怒鳴り声を上げるが、それでもやはり反応は無い。 康介は右腰に差していた拳銃を取り出して構えた。 「突入する」 「ええっ、急にどうしたんですか?  中岡は津木恋月のパパ活の相手ってだけで、凶悪犯とかではないんですよ?」 「楓の身に危険が迫ってる」 「え?」 康介の頭の中を知る由も無い高倍が、訳がわからないといった顔で困惑する。 「でも、令状も無いのに」 「取りに行ってる暇なんか無い」 「…………」 「責任は俺が取る。なんなら、お前は付いてこなくても良い」 一切の迷い無く康介は突入の構えを取る。 少し迷ったが、高倍も銃を手に取り、構えた。 「行くぞ」 目で合図を送り、康介は中岡の部屋の扉を蹴破った。
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