27、衝動*

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「楓、楓」 康介は腕の中の楓を軽く揺さぶり、呼びかける。 意識の無い楓の体はずっと震えていた。 彼の顔には涙の跡と打たれた痕、それに口元には血が滲んでいる。 体の方にも、いくらか殴打された痕が見てとれた。 中岡から受けた酷い仕打ちが容易に想像できる。 康介はぎりりと奥歯を噛み締めた。 「楓……」 もう一度、優しい声で呼びかけて彼の頬に触れた時だった。 突如、楓が弾かれたように目を見開いた。 「──っ!」 「楓!」 「ひっ……やめっ……」 「楓、落ち着いてくれ」 目を開けるなり、楓は康介の腕から逃れようと懸命にもがく。 錯乱状態にあり、彼の意識は中岡に襲われている時のままなのだと思われる。 しかし、その動きは弱々しく緩慢で、碌に力が入っていなかった。 「楓、大丈夫。もう大丈夫だから」 抵抗などものともせずに、康介は楓を抱き締めた。 頭を撫でて、安心を促す。 やがて落ち着きを取り戻した楓が、その目に康介の姿を映し出した。 「あ……」 「楓、俺が分かるか」 「康介……さん……?」 「よしよし、もう大丈夫だ。安心しろ」 「なんで、ここに?」 「色々あってな」 楓の意識が戻ったことで安堵した康介が、優しく微笑んだ。 それから、取り出したハンカチで楓の首筋の傷をそっと押さえる。 その時、楓が震えたままの手で康介のシャツの裾を掴んだ。 「どうした?」 「康介さん……」 楓は酷く怯えた顔をしていた。 その色は青褪めていて、呼吸が不安定になる。 「奥の部屋のクローゼット……中に、中に……」 苦しそうな呼吸の中で、途切れ途切れに絞り出される言葉。 それを受けて、ただならぬ何かを察する。 「そこに何かあるんだな」 「…………」 「分かった」 康介が頷くと、楓は力尽きたように目を閉じた。 体から力が抜けて、康介の服を掴んでいた手がパタリと床に落ちる。 一瞬、ギクリと心臓が震えた。 が、気を失っただけであることをすぐに理解して、康介は小さく息をついた。 丁寧な手つきで楓の体を床に横わらせる。 それから康介は上着を脱いで、楓の上に掛けてやった。 「すぐに戻るから、待っててくれ」 そうして立ち上がり、中岡を制圧していた高倍に向かって声を掛ける。 「高倍、俺は奥の部屋を確認してくる。すぐに戻るから、ここを頼む」 「分かりました」 すると、取り押さえられていた中岡が急に焦った様子で暴れ出した。 「や、やめろ! やめろおお!」 「大人しくしろ!」 押さえつけていた中岡に高部が体重をかける。 尚も中岡は暴れようとしたが、その場でじたばたするのがやっとだった。 楓の言った通り寝室のクローゼットに何かがあることを確信して、康介はリビングを後にした。
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