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後のことを高倍および同僚の刑事たちに任せて、康介はアパートの裏手に停めていた車に乗り込んだ。
助手席に楓を乗せてしっかりとシートベルトを締める。
そうしてハンドルを握る前に、康介はもう一度楓に目をやった。
やはり意識は無い。
しかし、固く閉じられているはずの目からは一筋の涙が流れていた。
「…………」
眉間に皺を寄せて、康介はその涙を掬い上げる。
先程の、中岡による醜い言葉の羅列。
あの時、楓は気を失っていたので直接的には聞いていないはずだ。
しかし、おそらく脳はその言葉を認識している。
彼の潜在意識に、あれらの言葉が刻み付けられてしまったと思われる。
この涙が証拠だ。
「楓、お前のせいなんかじゃない。お前は何も悪くない。……いいな?」
優しく諭すように言って、楓の頭を撫でる。
それから、康介はハンドルを握りアクセルを踏み込んだ。
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