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「…………」
高倍からの報告を聞き終えて、康介は通話を切った。
およそ楓に伝えるような事はない。
己の欲望に負けた中岡が人としての道に外れる行為に及んだ。ただそれだけのことだ。
楓はその被害者の一人だ。
彼には何の落ち度もない。
中岡のふざけた言い訳を聞かせて、これ以上心に傷を負わせる必要は無い。
携帯端末を懐に仕舞い込み、康介は病室に戻った。
病室では治療を終えた楓が静かに眠っていた。
二日連続で病院に担ぎ込まれることになり、医者を困惑させてしまった。
とは言え、楓は何も悪くないので仕方のないことだった。
「体の傷は何とかなるが、精神面が心配だ」と医者は言った。
それは康介も同じ思いだった。
「楓、頑張ろうな。俺と一緒に頑張ろうな」
鎮静剤が効いていて、今はよく眠っている。
どうか今夜は、夢の中でぐらいは穏やかに過ごしてほしい。
そう願いを込めて、康介は楓の手をしっかりと握り締めた。
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