33、愛情ゆえの気掛かり①

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「ただいま」 「お帰りなさい」 エプロン姿の楓が笑顔で出迎えてくれた。 リビングに入ると温かく美味しそうな匂いが漂っている。 出来立ての夕食が用意されていた。 肉じゃがを中心にした和食メニューだ。 昼過ぎに、紅茶を飲みながら康介がリクエストしたものだった。 更に、部屋の様子から掃除や洗濯といった家事もほぼ完璧に為されているのが分かった。 楓は、康介が居ない間にゆっくりするどころか、せっせと働いていたのだ。 「…………」 決して悪いことではない。それどころか感心するべきことだと思う。 しかし、康介は何か違和感を覚えずにはいられなかった。 (さすがに頑張り過ぎじゃないか) その違和感を証明するように、ゴミ箱には薬の殻が幾らか落ちていた。 康介がいない間、精神を安定させる薬を飲んで一人で耐えていたのだ。 (元気そうに見せているが、本当は辛いんじゃないか。体も、心も) とは言え、この心配をどう伝えれば良いのか分からない。 胸に不安を抱えたまま、康介は食卓に着いた。 「うん、美味い。どれこれも最高だ」 楓の手料理は文句なしの絶品だった。 彼への心配とは裏腹に、箸を進める手は止まらない。 「楓、あのさ……」 「何?」 「ええと、その……このジャガイモ! ほこほこで堪らないな」 「うん、そうだね」 「牛肉も、俺の好きな味付けで本当に最高」 「……良かった」 食事の中で、康介は楓への心配を口にしようとしたが、上手く言語化出来なかった。 それを誤魔化すように、ひたすら勢いよく箸を進めた。 料理が美味しいことに偽りはない。 ガツガツと食べ物を頬張る康介を見て、楓はほっと胸を撫で下ろしながら微笑んだ。
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