34、愛情ゆえの気掛かり②

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「あ……」 寝室に入ると、ベッドで眠っている楓の姿が目についた。 ぐったりとしていて、それは気絶しているようだった。 実際、毛布も被らずに横たわっていることから、 ちょっと横になったつもりが、そのまま寝入ってしまった…… そんな様子が見受けられる。 「風邪ひくぞ」 余っていた毛布を手に取り、そっと掛けてやろうとした。 それだけのつもりだった。 「──!!」 ほんの少し触れただけで、楓は弾かれたように飛び起きた。 息を乱し、怯えた顔で康介の方を見る。 僅かな異変に対しても敏感に反応しているようだった。 体と、そして心に受けた傷がそうさせていた。 「楓、俺だよ」 怖がらせないように優しく声を掛ける。 すぐに楓は目の前にいる人間が康介であることに気が付いた。 「あ、ごめん。寝るつもりじゃなかったんだけど、うっかり寝ちゃってた」 「疲れてたんだな。今日はこのまま寝よう」 「でも、勉強しないと」 「駄目だ。今日はもう休みなさい」 「でも、テストが近いし……」 「楓」 また無理して頑張ろうとしていると感じて、康介は珍しく咎めるような視線を楓に向けた。 「例えば、俺が風邪でも引いて高熱を出して、  それでも仕事に行くと言ったらどう思う?」 「行かないでほしい。心配だから、治るまで家で安静にしてほしい」 「だろ? 今の俺は、それと同じ気持ちなんだ」 「…………」 しゅんと肩を落としてしまったが、楓は確かに小さく頷いた。 そんな彼の頭を撫でて、康介は優しく微笑んで見せた。 「分かってくれたな。じゃあ、寝よう」 気まずそうに俯いている楓を半ば強引に抱き寄せて、康介は布団に入る。 ほどなくして楓は眠りに落ちた。 やはり、どんなに強がっていても体は疲弊していたのだろう。 「おやすみ」 慈愛を込めて囁いて、それから部屋の明かりを落とした。 部屋の中に響く雨音が気になって、康介は普段より強く楓を抱き締めながら眠りについた。
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