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「あ……」
寝室に入ると、ベッドで眠っている楓の姿が目についた。
ぐったりとしていて、それは気絶しているようだった。
実際、毛布も被らずに横たわっていることから、
ちょっと横になったつもりが、そのまま寝入ってしまった……
そんな様子が見受けられる。
「風邪ひくぞ」
余っていた毛布を手に取り、そっと掛けてやろうとした。
それだけのつもりだった。
「──!!」
ほんの少し触れただけで、楓は弾かれたように飛び起きた。
息を乱し、怯えた顔で康介の方を見る。
僅かな異変に対しても敏感に反応しているようだった。
体と、そして心に受けた傷がそうさせていた。
「楓、俺だよ」
怖がらせないように優しく声を掛ける。
すぐに楓は目の前にいる人間が康介であることに気が付いた。
「あ、ごめん。寝るつもりじゃなかったんだけど、うっかり寝ちゃってた」
「疲れてたんだな。今日はこのまま寝よう」
「でも、勉強しないと」
「駄目だ。今日はもう休みなさい」
「でも、テストが近いし……」
「楓」
また無理して頑張ろうとしていると感じて、康介は珍しく咎めるような視線を楓に向けた。
「例えば、俺が風邪でも引いて高熱を出して、
それでも仕事に行くと言ったらどう思う?」
「行かないでほしい。心配だから、治るまで家で安静にしてほしい」
「だろ? 今の俺は、それと同じ気持ちなんだ」
「…………」
しゅんと肩を落としてしまったが、楓は確かに小さく頷いた。
そんな彼の頭を撫でて、康介は優しく微笑んで見せた。
「分かってくれたな。じゃあ、寝よう」
気まずそうに俯いている楓を半ば強引に抱き寄せて、康介は布団に入る。
ほどなくして楓は眠りに落ちた。
やはり、どんなに強がっていても体は疲弊していたのだろう。
「おやすみ」
慈愛を込めて囁いて、それから部屋の明かりを落とした。
部屋の中に響く雨音が気になって、康介は普段より強く楓を抱き締めながら眠りについた。
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