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36、本心②*
「康介さん」
「──!」
弾かれるように飛び起きた。
嫌な汗が頬を伝う。
強い雨音が耳に響く。
乱れた呼吸を整えていると、背中に温かい手が添えられた。
「康介さん」
「ああ、楓」
楓が康介の背中をさする。
部屋には間接照明の明かりが点いていた。
「大丈夫?」
「ああ、すまない」
「苦しそうだね」
「ああ、ちょっと悪い夢を見ちまってな」
「あ……」
悪夢に魘される苦しさをよく知る楓が、辛そうに眉をひそめる。
それに気付いた康介が、微笑んで楓の頭を撫でてやった。
「でも、もう大丈夫」
本物の存在に心から安堵する。
心配そうな顔で覗き込む彼は、康介の知る可愛い楓だった。
「本当に大丈夫?」
白く柔らかい手が康介の頬に触れた。
いつもと逆の立場に苦笑する。
そして康介は、もう一度楓の頭を撫でてから、そっと彼を抱き寄せた。
徐々に腕に力を込めて、やがて強い力で抱き締める。
夢で見た悍ましい光景を払拭するように、腕の中の温もりをしっかりと確かめた。
「──!」
その時、不意に消毒液の匂いがツンと彼の鼻腔を突いた。
楓の首筋を覆う白いガーゼの下からのものだ。
軽く触れると、そこにはまだ熱があるのが分かった。
「あ……」
途端に蘇る、忌まわしい記憶。
脳裏に再現されるのだ。
あの穢らわしいケダモノが、楓を貪っていた光景が。
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