37、本心③*

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「…………」 「楓……!」 「ごめんなさい」 目に涙を浮かべて、楓は俯いた。 「楓?」 「“良い子”のままでいられなくて、ごめんなさい」 「何を言ってるんだ?」 「僕にとって康介さんは神様みたいな存在だから、  康介さんの言うことなら何でも聞くつもりだった。  ……でも、このお願いは聞きたくない」 俯いたままの楓の目からポロポロと涙が落ちる。 「僕は康介さんを拒絶したくない」 「楓、だがそれは……」 「康介さんには父親としていっぱい良くしてもらったのに、  “良い息子”になれなくて、ごめんなさい」 「……….」 「大切な家族だし、同性なんだし、  こんなことを思ったらいけないって頭では分かっていたのに……」 楓がゆっくりと顔を上げる。 涙があふれるその目は、極上の宝石のように煌めいていた。 「好きになって、ごめんなさい」 美しい涙と共に吐露された想い。 暫しの間、康介は魅入られたように、ただただ楓を見つめた。 「良いのか?」 「……うん」 「今なら、まだ引き返せるんだぞ」 「……ううん」 「俺は……お前を自分のものにしたいと、そう思ってるんだぞ」 「とっくの昔から、僕の心は康介さんのものだから」 「…………」 康介は強い力で楓を抱き締めた。 いつものように力を加減せずに、思うがままに抱き締めた。 心地良い息苦しさの中、楓も康介の背に手を回す。 「愛してる」 「僕も」 「愛してた。ずっとずっと前から」 「うん。僕も」 長い間、愛情ゆえに踏み込むことが出来なかった隙間を埋めるように、強く強く抱きしめ合った。 それから腕を緩めて、互いの視線を絡ませて──そして、唇を重ねた。 長い間、ずっと守り続けてきた親子としての一線を、越えた瞬間だった。 どれぐらいそうしていたのだろうか。 唇を離した時、楓は少しばかり苦しそうに呼吸を乱していた。 「すごい、ドキドキしてる」 「俺もだよ」 触れた場所からお互いの鼓動が伝わってくる。 そうして、頬を赤らめて目を涙で潤ませて見上げてくる楓の顔は、康介の劣情を強烈に煽った。 「んん……」 もう一度、康介は楓と唇を重ねた。 先ほどよりも深く、貪るような口付け。 舌を捻じ込んで互いの唾液を交わらせる。 甘い味わいを堪能して、康介はそのままゆっくりと楓を押し倒した。 細く白い腕を伸ばして、楓は康介の全てを受け入れる。 後には、荒々しい息遣いと艶かしい嬌声が何度も何度も響き合った。 床に落ちたままの指輪は、もう光を反射しなかった。
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