38、ぬくもり

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38、ぬくもり

朝を知らせる柔らかい光が、カーテンの隙間から差し込んでくる。 昨夜の雨が嘘みたいに、空は晴れ渡っていた。 陽光は眩しいが、窓の外は寒々しく冷え込んでいるのだろう。 なにせ今は12月半ば。冬そのものなんだから。 (夢、か?) 目を覚ました康介は、腕の中にある温もりを確認する。 (……ああ、現実だ) 康介の腕の中には、静かに眠る楓が居た。 二人は、互いに素肌を触れ合わせていた。 楓の白い肌には、康介が付けた愛情の印が幾つも刻み付けられていた。 「楓……」 頬に触れたり髪を撫でたりするものの、楓は全く起きる気配が無い。 疲れ果てて、ぐったりと眠り込んでいるようだった。 (大丈夫かな) 最初のうちは楓を怖がらせないように気を遣っていた。 痛がるようならすぐにでも行為を止めるつもりでいた。 しかし、長い間募らせた思いが成就した時、理性の全てが吹き飛んだ。 我を忘れてありったけの熱情を注ぎ込んだ。 楓が意識を失った後も、何度も何度も…… (俺は、本当に超えてしまったんだな) 人として親として、決して超えてはならなかった一線を超えてしまった。 本来あるべき真っ当な人の道を踏み外してしまった。 (言い訳は出来ない。俺は、欲望に身を任せたんだ) ずっと、家族として愛するつもりでいた楓を巻き込んで。 (それなのに……) 眠ったままの楓をそっと抱き寄せる。 (俺は今、こんなにも幸福感で満たされている) 肌と肌でその温もりを確かめて、康介は楓にもう一度口付けをした。 その心に、もはや後悔は無かった。
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