40、お互いの心

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40、お互いの心

「1つ、聞いていいか?」 ベッドの上で抱き寄せて、楓の髪を撫でながら康介が問いかける。 怪訝な顔で楓は首を傾げた。 「何?」 「いつから、俺のことを好きになってくれたんだ?」 「えっ? そ、それは……」 思わぬ質問を受けて困惑したのか、楓は顔を赤らめて俯いた。 「はっきりとは分からない」 「そうか」 「でもね」 「ん?」 「初めて会った時からずっと大好きだった」 「初めて会った時っていうと……」 それは、幼い時の楓が誘拐犯に攫われた時のことだった。 犯人によってイタズラされそうになっていたところを、 駆け付けた警察官によって楓は救出された。 その警察官こそが、若き日の康介だった。 この出来事を機に、康介は楓とその母親・桜子と出会い、深い関係になっていった。 「あの時か」 「多分、今の好きとは違うと思うけど。  でも、怖い人から助けてくれた、神様みたいな存在だった」 「大袈裟だなあ」 「そんなことないよ、本当に」 顔を赤らめたまま、楓は俯かせていた顔を上げる。 が、康介と目が合ったかと思うと再び恥ずかしそうに俯いた。 その仕草が可愛くて、康介の中にたまらない愛しさが込み上げる。 「それから、母さんが亡くなってどうしようもない状態だった僕を、  康介さんが本当の家族にしてくれたから」 「ああ……」 「この気持ちは家族としての好きなんだって思い込むようにしてた。  康介さんに嫌われたり、気持ち悪く思われたくなかったから」 「……そうか」 「だからね、今のこの好きって想いがいつからなのかは、もう分からない」 俯いて、戸惑いながらも健気に言葉を紡ぐ楓を、康介は強く抱き締めた。 「良かった。俺と同じだったんだな」 「え?」 「楓はさ、俺が何を望んでるのかを察知して、  それに合わせた受け答えをしてくれることがあるだろ?  だから、昨夜のことも俺が無理やり言わせてしまったのかもって不安があった」 「そんなこと……!」 「ああ、分かってる。俺もずっと同じ気持ちだったから」 「同じ気持ち?」 「ああ。いつからこんな風に愛していたのかは、もう分からない。  家族として愛するべきだと、ずっと自分に制限をかけていたから」 「…………」 「でも、お前が他の奴に押し倒されてるのを目の当たりにしたら……  これまで我慢してきた思いが、抑制できなくなった。  俺は、本当はずっと前からお前を俺のものにしたかったんだ」 「康介さん」 「でも怖かった。家族として慕ってくれている楓を失うに違いない。  楓に嫌われて、楓が俺から離れてしまうと思うと怖かった」 康介がずっと隠していた不安を吐露すると、楓は懸命に首を横に振った。 「康介さん。僕は、康介さんになら何をされても絶対に嫌いになんかならないよ」 ──例え、殺されても。 「はは……俺たちは、本当に同じ気持ちだったんだな」 お互いの本心を知れて安堵したのか、康介は温かい想いを噛み締めるようにして深く息をついた。 それから、楓と向かい合う。 切なげに瞳を揺らす楓の顔は怖いぐらいに魅惑的だった。 「楓、愛してる」 「僕も、愛してます。康介さん」 吸い込まれるように、康介は楓にキスをした。 お互いの指を絡ませながら、深く甘い口付けをした。 窓から差し込む温かな光が、祝福のように二人を明るく照らしていた。
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