41、クリスマスの記憶

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41、クリスマスの記憶

「なあ、桜子」 「なあに? 康介さん」 「俺たち、かなり相性良いと思うんだけど」 「そうね。私もそう思う」 「だからさ、家族にならないか?」 「うーん。それはどうかしら」 「俺じゃ駄目なのか?」 「貴方のことは好きよ。良い人だと思うし、とても素敵よ」 「だったら……」 「でも、私が心から愛する人はただ一人なの。もうこの世には居ないけど」 「…………」 「ごめんなさいね」 「いや、良いんだ」 「もう、ここに来たくなくなった?」 「いや」 「無理しなくて良いのよ」 「そんなことない」 「でも……」 「君の一番になれないことは分かった。  けど、せめて楓の父親の代わりになりたい」 「…………」 「俺じゃ駄目か?」 「そうね。貴方が本当に心から楓を愛してくれるなら。  楓が、貴方と一緒に居ることを望むなら……ありかもね」 「楓に聞いてみるか?」 「聞くまでもないわ。楓は康介さんのことが大好きだもの」 「じゃあ……」 「この話の続きはまた今度にしましょう。  今夜はクリスマスイブだからお互いに忙しいでしょ?」 「ああ、まあな。でも、楓へのプレゼントはちゃんと用意しておくから」 「ふふ。楽しみにしてるわ」 そう言って桜子は笑った。 康介にとって、それは桜子と交わした最後のやりとりになった。 その日の夜、彼女は暴漢に襲われて命を落とした。
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