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43、新しい日常②
時は流れ、中岡の件から10日以上が経った。
「おお、全部平均よりずっと上じゃないか」
返却されたテスト結果を見て、康介は嬉しそうに笑う。
楓の期末考査は、どれもこれも良好だった。数学さえも。
「よくやったな。親として鼻が高いぞ」
息子の好成績を喜ぶ康介は、間違いなく父親の顔をしていた。
つられるようにして楓も笑う。
ソファに腰掛けてお茶を飲む、夕食後の穏やかなひと時だった。
「毎晩頑張ってたもんなあ。報われて良かったよ」
よしよし、と努力を労うようにして頭を撫でる。
それから康介は、隣に座る楓の肩を抱き寄せて、その頬にキスをした。
「ご褒美だよ。……なんてな」
照れ臭そうに康介は笑ってごまかす。
不意打ちだったが、楓は顔を赤らめながら嬉しそうにはにかんだ。
お互いが心に秘めていた思いを交わらせて以来、二人の間には甘い空気が漂うようになった。
まだ遠慮がちではあるものの、日常の中で体を触れ合わせたり、キスをする事が増えた。
長く一緒に暮らしてきたが、ここにきて新たな幸せを感じている。
こんな日が来るとは思っていなかった。
どんなに願っても叶わない……否、決して叶えてはいけないものだと、お互いにそう思っていた。
その壁を破った先にある今は、拍子抜けするほどに幸せな日々だった。
楓の回復も順調に進んでいた。
今でも通院しているし薬は欠かせないが、以前よりはずっと落ち着いている。
全てを康介に受け入れられた事が、心の安定に繋がっているようだった。
尤も、康介とのことは医者には言えないのだが。
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