47、真・誓いの指輪

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「なあ、楓。あの指輪、今も手元にあるか?」 「もちろん、あるよ」 「ちょっと良いか?」 「うん?」 康介に促されて楓は首に掛けていた細い鎖を取り出す。 鎖に通している指輪ごと一緒に、康介に手渡した。 「これは桜に捧げようと思う」 「え?」 「この指輪は、楓を引き取った時に俺が親になると誓いを込めて買ったんだ」 「うん」 「今までの俺の努力の証として桜に捧げようと思う」 そう言って康介は指輪を写真立ての手前に置いた。 楓は寂しそうな顔をしたが、康介の考えに黙って頷いた。 「それで、これからなんだけど」 「?」 「その……」 少し迷いながら言葉を探す康介に、楓が怪訝な目を向ける。 やがて意を決した顔で、康介は楓と向かい合った。 「これからの俺は、楓のことを家族としてはもちろん、  人生の伴侶として愛していきたい」 堂々と言い切って、懐から小さな箱を取り出した。 その中に収められていた白銀の輝きを見て、楓は大きく目を見開く。 「誓いの指輪だ」 指輪は同じデザインのものが二対になって並べられていた。 その内の一つを手に取って、康介は楓を見つめた。 「受け取ってくれるか?」 「……!」 楓は大きく目を見開いたまま言葉を発せられずにいた。 驚きと喜びが同時に体中を駆け巡り、まともに頭が動かなかったのだ。 だから、康介の言葉にただただ頷くことが精一杯だった。 その思いを受け取って、康介は心からの笑顔を見せた。 「良かった。じゃあ……」 楓の左手を取り、その薬指に指輪を嵌める。 細く白い指を彩る白銀の指輪は、神秘的な美しさで輝いた。 「思った通りだ。よく似合う」 康介は満足そうに笑った。そして、自身の左手を楓の前に差し出す。 「俺にもつけてくれないか」 「う、うん」 もう一つの指輪を手に取り、今度は楓が康介の指に嵌める。 硬く武骨な指に、白銀の指輪が力強く煌めいた。 「これで俺たちは生涯のパートナーたな」 「……うん」 お互いの指輪と顔を交互に見合う。 深く息をついて微笑む康介に対し、楓は未だに現実感の無い顔でぼんやりとしていた。 そんな彼の両肩を掴み、康介は真剣な眼差しを向けた。 「楓」 「は、はい」 「愛してる」 「僕も、愛してます」 「これから、改めてよろしくな」 「こちらこそ、よろしくお願いします」 言い終わると、楓はぶわりと目から大粒の涙を溢れさせた。 それは堰を切ったように溢れ出て、とどまることを知らないようだった。 涙を隠そうと両手で顔を覆うと、左手の指輪が殊更キラキラと輝いた。 たまらず、康介は強い力で楓を抱き締めた。 「やれやれ、可愛い泣き虫だなあ」 「だ、だって……幸せすぎて、頭がおかしくなりそうで……」 「そうだな。俺もだよ」 抱き締めながら、よしよしと楓の頭を撫でる。 そんな康介の目にも、キラリと光るものがあった。 やがて楓も康介の背中に手を回し、二人はしばらくの間ずっとお互いを抱きしめ合った。 窓の外では、白い雪が静かに降り続けていた。 それは少しずつ降り積もり、やがて街全体を白銀に染め上げてゆく。 辛い記憶を優しく包み、美しい記憶に塗り替えるように。 真っ暗な空から、白い雪は静かに降り続けた。
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