麒麟の鳴き声

6/9
前へ
/9ページ
次へ
半年後・・・ 「呑め呑め!!!タダ!!! お前は何も悪くない!!! 悪いのは全部あの女だよ!!!」 酒屋を1人で営んでいた父親が亡くなり、俺は商店街に戻ると決めた。 あの日告白をしてから付き合うようになり、すぐに結婚までしたあの女の子と。 豪華な結婚式と新婚旅行をしたあの女の子と。 炊事洗濯が一切出来ないあの女の子と。 たまに愛の言葉を囁いてくれてキスをしてくれるあの女の子と。 でも、セックスはしてくれないあの女の子と。 俺以外の男と外でセックスをしているあの女の子と。 そして、一緒に商店街には来てくれなかったあの女の子・・・。 「そんな不倫女のことなんて忘れろ、タダ!!!」 商店街にある俺の家でタカラが日本酒をお猪口に注いでいってくれる。 それを見ながら、俺はグラスをタカラに向けた。 日本酒はお猪口という酒器で呑むことに拘りがあるけれど、今はとにかく量が呑みたかった。 「不倫まで許すとか、タダ兄優しすぎますって!!! 俺、今からぶっ殺して来ますよ!! タカラ兄が調べた不倫相手の家にいるでしょうし!! タダ兄の為なら刑務所に入れますよ、俺。」 元不良の幼馴染みがそう言って、空っぽになった日本酒の瓶を持ち上げた。 「いいから!!本当に、いいから!! 俺が不細工なのがいけないだけだから!! こんなに不細工な俺と付き合ってくれて結婚までしてくれて、愛の言葉も囁いてくれてキスまでしてくれて!!! それだけでもう満足だから!!! 離婚はしたけど感謝もしてるから!!!」 「お前のことを散々利用するだけ利用してきた女の何を庇ってるんだよ!? 金もあの女にほとんど取られて、こんなにガリガリになるまで心も取られて、それでもあの女を庇うとか頭まで取られただろ!!」 集まってくれた幼馴染みの男達が俺の代わりにそう言ってくれる。 久しぶりに帰って来たこの商店街は温かかった。 やっぱり、温かかった。
/9ページ

最初のコメントを投稿しよう!

85人が本棚に入れています
本棚に追加