麒麟の鳴き声

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そして、全員でベロンベロンになりながら向かった先は、商店街を出て少し歩いた所にある神社。 小さな神社だけどこの町の人達にとっての神社はここだった。 お正月は必ず初詣に来るし、何か願い事があれば必ずここでするくらいお世話になる神社。 深夜に男達でフラフラとしながら神社の鳥居をくぐる。 これからの俺の幸せを願う為にと来てくれた温かい幼馴染み達。 そんな幼馴染み達に感謝をしながら、俺は聞いてみた。 「絹枝はたまに帰ってくる?」 最後に会ったのは、俺が女の子と付き合った数日後に絹枝の家のお茶屋に行った時。 付き合ったばかりのあの女の子を連れていった。 絹枝に自慢してやりたかったから。 あの頃はあの女の子は綺麗な心をしている女の子だと信じていたから。 そんな女の子と付き合えた俺のことを見て貰いたかった。 絹枝は小さく笑いながら何度か頷き、「よかったね」と言っただけだった。 それから絹枝が一人暮らしを始めたと聞かされたのは絹枝が引っ越した後だった。 結婚式にも来てくれなかった絹枝のことを、鳥居をくぐった時に何故だか思い浮かべた。 「絹枝ちゃんは帰って来ないな。 仕事が忙しいって。」 「正月にも帰ってこなかったもんな。」 「看護師だからな、大変な仕事だよ。」 幼馴染み達の返事を聞きながら、拝殿の階段をみんなで上り握り締めていた5円玉を見下ろす。 「タダの幸せを願ってやるからな!!」 幼馴染み達が呂律が回っていない口調でそう言ってくれ、みんなで5円玉を賽銭箱に投げ入れた。 そして、俺は願った。 俺の幸せでもなく幼馴染み達の幸せでもなく、勿論あの女の子の幸せでもなく。 俺のことを不細工だと、“ブッサイク”だと言い続けた絹枝の幸せを。 本当だと思ったから。 俺は顔だけではなくて心までも不細工だとやっと分かったから。 心から好きではない女の子と結婚してしまった、どうしようもなく“ブッサイク”な男なのだと分かったから。 幼馴染み達の温かい言葉よりも、俺には絹枝の“ブッサイク”の言葉が1番震え上がる。 身体も心も頭も、俺の全てが震え上がる。 “正しい仁を成せ”と、俺の全てが震え上がりながら主張してくる。 絹枝に“ブッサイク”だと言われない為に、ただそれだけの為に。 そんな力を持っている、俺と犬猿の仲と呼ばれた絹枝のことを思いながら俺は願った。 絹枝が幸せになれますように。 思ったことを何でも口に出すキツイ女の子でもあるから、それでも良いと、そんな絹枝が好きだと、そう思ってくれる男と幸せになれますように。 愛の言葉なんて囁かなくても、キスなんてなくても、ちゃんと心から絹枝のことを愛してる男と、絹枝が幸せになれますように。 神様・・・。 神様・・・。 神様・・・。
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