優しいキス

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優しいキス

「大丈夫?」 「はい」 後ろに倒れそうになった私を先生が、支えてくれた。 その後、先生が何かを必死で話していたけれど…。 何の音も聞こえはしなかった。 卒業式は、美笠蓮(みかされん)など初めから存在していなかったように通常通り執り行われ、無事に終わった。 叔父夫婦は、いい親族の代表のような顔をして平然と保護者席に座っていた。 私は、卒業アルバムとそれぞれが三年間の思いを書いている冊子を手に帰宅した。 私は、帰宅してすぐに美笠蓮(みかされん)のページを読んだ。 【窓 三年一組 美笠蓮】 俺は、サッカーをやるうえで大切だった足を負傷した。もう二度とサッカーが出来ないと知って絶望していた。朝練の時間に、教室の窓からみんなを見つめるのが日課になった。この窓が、俺にはまるで牢獄のようだった。この窓から見えるキラキラに、俺は二度と()れられないのがわかっている。それと同時に気づいたのは、歳を重ねていってもそうなのだと気づいたのだ。俺は、いくつになっても、外のキラキラを掴めない人生なんだ。流れる景色や見える景色が、かわっても…。大人になって、考えがかわっても。俺の見てる世界はかわらなくて…。見えてる世界はかわらなくて…ずっと、窓から見える切り取った世界が広がっていくという事を俺は、学びました。そんな世界から、飛び出していける方法がある事を学びました。ありがとう、またいつかどこかで。さようなら 両親を失い枯れていたと思っていた私の目から涙が流れた。 飛び出すとは、君が飛び降りるということだったのですか 25年後ー 「おはよう、三千絵」 この時期になると、私は、その冊子を読むのだった。 「おはよう」 私は、今とても幸せだ。 「死んだって言ってなかっただろ?三千絵」 コーヒーをもってきた私の髪をカラーは撫でる。 「あの日は、何も聞こえなかった。」 私が、旅館に住み込みに行く日 蓮は、目の前に現れた。 「結婚しませんか?こんなんですが…」 「えっ?」 車椅子に乗った美笠蓮は、お年玉やお小遣いを貯めたお金で買った婚約指輪を差し出した。 「します。」 私は、すぐにそう言った。 「じゃあ、旅館はなしで」 そう言われた。 あれから、25年が経った。 私と彼は、二人で生きる人生を選んだ。 それは、私達の人生がとても生きづらかったからだった。 「蓮、窓から見える景色はどうなったの?」 「うん、そうだなー。」 蓮は、コーヒーを飲んでる。 私の世界の色は、美笠蓮(みかされん)と一緒に住んですぐに色づいた。 ただ、蓮の窓の話だけは、ずっと聞けずにいた。 蓮は、私の頭を優しく撫でて満面の笑みで笑いながらこう言った。 「あの日のキラキラが、ここにいる。」 そして、優しいキスが舞い降りた。
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