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「今度、結婚することになった」
急に会おうと言ってきたあなたは私の目をしっかり見ながらそう言った。
「佐山叶恵さんと。実は子どももできたんだ」
ずんとした錘が内臓に乗っかったように感じ、言葉が出なかった。
幸せを噛み締る表情に促されるようにして口が動いた。
「おめでと」
あまりに突然で身体が置いていかれるような感覚になった。
こんな日がくることを予想していなかったわけではない。あなたはあの日から本当に
変わってしまったから。あの日あなたは、きっと大切だったものを失ってしまったの
だろう。あれは、仕方のないことだったのに自分のことをずっと責めて責めて誰よりも
あなたのことを嫌っていたよね。時間が解決してくれるって私は思ってたけど
あなたの中でその喪失が薄れることは
なかったんだね。以前よりも笑うように
なったのは、あなたの心が壊れてしまった
からだったんだとやっと今気づいた。
あの日、あなたと佐山叶恵が私の元に結婚の報告に来た日、私が佐山叶恵を殺した日からあなたは壊れてしまった。
気が動転して自らの母を通報してしまって深く後悔しているのでしょう。佐山叶恵が
死んだことも忘れてしまうほどに。あなたは佐山叶恵には勿体ない素晴らしい人間だから私が殺しても仕方がなかったのよ。おかしくなるほど思い悩む必要なんてないのに、
優しい子ですね。
大丈夫よ。
ママがもうすぐここから出てあなたを抱き
しめてあげるからね。
ママが守ってあげるからね。
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