1.2 卑弥呼を僕と呼ぶ女

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1.2 卑弥呼を僕と呼ぶ女

 核ミサイルが夥しい悪夢を産み落とし、地獄の業火に焼かれた人々が、生きることを全力で否定される。  戦場が、気がつけば軍人同士の喧嘩から、一般人に対する殺戮へとその戦禍を広げることは、この地球の歴史において、それはあまりにも当たり前の歴史の一ページである。  戦場では優秀であるか否かはあまり関係がない。いや、それは語弊がある。優秀な指揮官が仮に指揮をしていたとしても、国家自身の方針がすでに間違っていたのであれば、そこにどれだけ素晴らしい兵士や指揮官、軍事兵器を投入したところで、戦価には結びつくものではない。  だが、我々は時代に迎合して生きるべきなのか?つまり、国家という大局同士の作りだした結論だけが先にあるものとすれば、歴史とはすべて受動的に受け身に受け取るものとして、迎合を繰り返す産物なのか?  いや、それは指導者がそれを認めない。世界の中で国家を牛耳る指導者は、唯一戦争を自発的に行うことを可能とする。つまり、歴史を己の手で書き換えることができる、唯一の存在であり、人の世界において、それはまさに生殺与奪を自由とする神に等しいものであろう。  その戦いの結実として、核ミサイルが降り注いだ地上は、地獄でしかない。  しかし、その核ミサイルが炸裂したその閃光や放射能、熱や圧力、衝撃波などをすべて受け止める事(者)がいたとしたらどうだろう。それもまた一つの神ではないか。  敵兵である女兵士を殺し、再び己の愛機を上空にまで舞い上がらせたところまでは良かった。破壊されてしまった地上基地を捨て去り、別の基地に受け入れを求めても良いとは思ったが、しかし、仲間を見捨てることになると、思いを新たにして、大きく旋回をして、自分の基地の方に機首をむけた。  すぐに基地上空に辿り着く。何度も旋回する。  先ほど大量に落下傘が下されたあたりを低空飛行すると、味方の兵士達が立ちすくんで空を見上げていた。地上は予想を裏切り無傷である。  それにつられて上空を見る。  あれは・・なんだ?  炎と稲妻が渦巻くなんらかの袋に入ったような衝撃そのものの渦が、赤黒赤黒と黒煙混じりに上空に浮かんでいる。  その大きな袋の下に、小さな物体。  人の姿。  人が宙に浮いて、上を指さすかのような姿勢。  「あれは・・核爆発そのものだ・・」  その袋の中で爆発しているのは核爆発である。それがなぜか閉じ込められた状態で宙吊りになっているのだ。  謎の人影は、髪の長い女性である。何も服を身につけていないように見えるが・・とても華奢である。  その女性の周囲を数回旋回する。  そして驚くことに次の瞬間、その女性はコクピットの空席だった後部座席に座っている。  「予の名は朱雀乃満。この地、日本を創造した者。かような狼藉。認めるわけにはいかない。核ミサイルは、宇宙に向けて葬り去る。」  女性は、絹でできた柔らかそうな服を身に纏っていた。  「どうやって乗った。」  「さっき、空間移送で。」  「お前は何者だ?宇宙人か?」  「違う。私は、そなたの何百代も遡るような祖先。日本の創始者だ。」  「卑弥呼・・か?」  「違う。」  「じゃぁなんなんだ。」  「卑弥呼は神である私と通信をすることを信託されていたに過ぎない。」  確証の持てない話がたくさん出てくるので、いったん会話を打ち切る。  先ほどの、核爆発の入った袋は徐々に加速度的に上昇して行き、宇宙空間の方へ向かって、地球上から放出されていった。  先ほどの女性。つまり後部座席に乗っている女性は今、寝息を立てて眠っている。  なんだかわからないが、彼女は我々の地上。つまり日本を守ったのは事実だった。
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