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「うっわ、めっちゃビビったー! ぶわははははは! やべぇ、自分で超ウケる! 俺いくらなんでもビビりすぎですよね?! ホントすいません!」
びっくりして夏湖が言葉を失っている間にも相手は爆笑している。だんだん夏湖にも、可笑しさが込み上げてきた。
「ふはっ! いえ……ふふっ。わたしもすみません、急に声を掛けてしまって……ふふふっ」
「いや、めっちゃツボるじゃないっすか」
「だってわたしまで“ぎゃー”って……あはは!」
「ぶふっ! うわははははは! 確かにすごかったっすよ、“ぎゃーっ?!”つって! いや、だから俺マジ人のこと言えねー! うわははは!」
しばらく二人でツボに入ってしまい、声も憚らず笑い転げた。夏湖はこの時だけは、これが夢であることをすっかり忘れていた。
「はぁー笑った笑った……ってやべぇ、俺まだバイト中なんだった! すいません、失礼しますね」
「あっ、待って下さい!」
「はい?」
急ぎ足で自分の脇を過ぎ去ろうとする男を、夏湖は慌てて呼び止めた。声を掛けた当初はここはどこかと聞いてみようと思ったのだが、邪気の無い表情でこちらを振り返った男の服装を見て、咄嗟に言葉を変えた。
「バイト先ってもしかして、中華料理屋さんですか?」
「あっ、はい」
「ついて行ってもいいですか?」
「なんで?! いや、つーか……あなた誰ですか?」
男の疑問にすぐさま「炫木夏湖です」と自己紹介をすると「そうなんだけど、そうでなくて」と困惑されてしまった。
「えっと、ルームウェア屋さん? の人じゃないんすか?」
男がそう言うのも無理はなかった。夏湖は寝ぐせこそ付いていないものの、ふわふわしたパジャマ姿なのである。
「違います。わたしはここを夢に見ている人です」
「はあ」
「あなたは……スウ、リージンさん、ですか?」
夢の中であると思っているので、夏湖は人見知りなどせずに男の胸元の名札に顔を寄せた。半歩のけ反った男――鄒李静は、「あっ、はい」と思わず素直な返答をしてしまう。
夏湖は顔を上げると、その瞳を期待に輝かせて李静に言った。
「李静さん、わたしの夢の中華料理屋さん『陳杢』に連れてってください!」
李静は夏湖のその眼差しと勢いに、思わずこくこくと頷いた。
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