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◆静寂を嫌う男
ガタガタと派手な音を立てて、分厚い札束が吸い込まれていく。ガラガラと騒音を響かせて、大量の硬貨が飲み込まれていく――。
計上した本日の現金売上を収める入金機。ここにありったけの金を注ぎ込んでいる時間がこの男――鄒李静は好きだった。
他のスタッフが「金額が合わなかったらどうしよう」「紙幣が破れたらどうしよう」「金を無くしたらどうしよう」などと言い、やりたがらないのが不思議だ。李静はうるさい大金を見守るこの仕事を気に入っているので、率先して取り組んでいる。
大学生の李静がアルバイトをしているのは大型ショッピングモールの最上階、レストラン街の一角に店を構える中華料理屋だ。食券制となっているため、バーコード決済が主流となってきているこの頃でも現金での会計が大半を占めており、入金にもなかなか時間がかかる。
ガッ、ガガッ……ビィービィービィー!
そんな時、多くのアルバイトスタッフが恐れていることが起きた。どうやら硬貨が詰まったらしい。嫌な警告音を響かせて、入金機はいち早く詰まった硬貨を取り除く作業を行えと吠え立てた。
李静は一つ溜息を吐くと、手慣れた動作で入金機のレバーを引いた。
入金のプロとも言える彼にとって、硬貨の詰まりなどさして問題ではなかった。機械に表示された案内画像を見なくとも、硬貨詰まりの際どのように対応すべきなのかもう覚えてしまっている。
「あれ?」
機械の内部で引っかかっていた硬貨を摘み出した李静は、疑問の声を上げた。詰まっていたのはどうやらお金ではないようだ。
「これ、券売機通っちゃったわけ?」
出てきたのはゲームセンターにあるような、ピカピカの金色をした硬貨だった。五百円玉とほぼ似た大きさと厚みをしており、『陳杢』というエンボス加工された二文字が雷紋に囲まれている。
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