シトラスおじさん!

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シトラスおじさん!

―*―*―*―*―  ある日、僕が仕事から帰って来たら「君、何か悩み事あるね?」とシトラスおじさんが夕食の準備をしながら訊いてきた。 「いや? 別にないですよ、悩みなんて」と僕は狼狽えながら言った。 「隠さなくていいから。君と初めて会ったときから分かっていたんだ。私は様々な香りを嗅ぎ分けることができて、人の内面の匂いだって感じ取ることができるんだからね」 「そ、そうですか……でも、どうしようかな……」 「ほら、言ってみなさい。なんか水臭いよ。いくら芳香剤の私でも誤魔化すのが困難なくらい水臭いんだから。私たちは親友じゃないか」 「シ、シトラスおじさーん、上手いこと言うんだからー! じゃあ、もう、隠していたことを打ち明けちゃいますー!」と、僕は親友という言葉の響きに感動して、思わずテンションが上がってしまい、絶叫するに至った。 「ほら、言ってごらん」  シトラスおじさんが微笑む。 「実は、会社の人間関係について悩んでまして……」と僕は社内の派閥争いに巻き込まれて困っていることを打ち明けた。 「そうか……それは大変だね。君の気持ち、少しだけかもしれないけど共感できるな。実は私も、おじさんバラエティパックの中で上手くいってなくてね。だって、癖の強いおじさん達の集合体だからさ。私にできることなら精一杯力になるよ。だから、これからは、もう一人で抱え込まなくていいんだよ」 「シ、シトラスおじさーん!」と僕は叫ぶ。 「どうやら、君は感動すると絶叫する変な癖があるようだね。将来、絶叫おじさんとして第二の人生を歩んだらどうだね?」 「シ、シトラスおじさーん! 僕の将来について考えてくれてありがとう!」 「いいんだよー! さあ、前を向いて生きるんだー!」    シトラスおじさんも、僕に負けじと叫んだ。 「うるせーよ!」と隣の部屋の住人が壁を叩きながら叫ぶ。 「ごめんなさーい!」と僕とシトラスおじさんは声を揃えて叫ぶ。    叫びながら、人生っていいなって久しぶりに思えた。    もう、どんよりと暗く俯いて生きるのはやめようと決心した。  シトラスおじさんと出会えて本当に良かった。  シトラスの香り、それは僕の良き人生の香りなのだろう。      (了)
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