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最初に倒れたリーダー格の男の子が、何だよお前はと上げかけた言葉を飲み込んだのも無理はありません。年恰好こそ私達とさほど変わらぬか少し上に見ましたが、こんな田舎ではまず見かけない身分の高そうなドレスと堂々としたたたずまい、明らかにお金持ちのお嬢様でした。ただやや崩れた髪型と、取れかかったリボンだけが違和感を醸し出していました。
そんな出会いが4歳の私達にはあったのです。
その方の緑色の瞳がキュッと細められると男の子たちは一度びくりとしましたが、男の意地と言うのでしょうか、すぐに立ち上がって再び彼女に襲い掛かりました。ええ、最初から最後まで一方的でした。
獅子奮迅の彼女を止めようと後からやって来た、やはり身なりの良い格好をした同世代の男の子を含めて総てノックアウトするのにさほどの時間はかからなかったと思います。
いじめっ子のリーダー的男の子を飛び蹴りで打ち倒す姿をこれ以上ない位に目を見開いて見つめるサッチンのそれは夢見る様に潤んでいて、頬の紅潮は耳や喉にまで達していたのを覚えています。
『この領内で、被虐の涙は私が許さん』
いじめられっ子に訪れた救いのヒーロー・・・・・・ いえ、ヒロインなのですけれど、サッチンにとってはおとぎ話の絵本から飛び出した白馬の王子様に見えていたに違いありません。ええ、疑う余地もありません。だって、その日の夕食時に彼女は言ったのです。
『さっちんは、あーにゃさまのおきさきになります』
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