桜咲くころ

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この時期になると、たまに思い出す。桜と卒業文集。 何かの問いに、いつも答えに困っていた。 好きな教科。 お嫁さんにしたい子。 それから… 何を問われ、何に答えていたかも忘れているけれど、ほとほと途方に暮れるくらい困った設問は、「将来何になりたいですか」。 お嫁さん。 お花屋さん。 ケーキ屋さん。 頭に浮かぶけれど、本当になりたいかはわからない。 好きな芸能人のお嫁さん。〇〇くんのお嫁さん。 と、友達から受け取ったプロフィール帳には書けるけど、卒業文集に書く勇気はない。というより、卒業文集となるとやっぱり本気で考える。プロフィール帳が真剣じゃないわけではないけれど、ふわふわした夢物語で軽く書いたりできる。今だって同じだ。ケーキ食べながら、お酒飲みながら喋るちょっと本気の戯言に似ている。ちょっと本気。そうなったらいいのに。と、雲の上で寝たい遊びたい、みたいな夢のような。 透明人間になりたい。 そして、あなたの目の前で、あなたの横で、あなたの後ろで見ていたい。一緒にいたい。 その方が、よっぽど真剣に考えられるけど、卒業文集にはやっぱり書けそうにない。プロフィール帳なら書けるけど。 一周して、お嫁さんになりたい。 桜の花びらが舞うなか、第二ボタンを貰いに行くシーンを想像して、それから… 「進学先や、進路希望欄にもそう書くの?」 少しだけ笑いを含んだ優しい声が、わたしを連れ戻した。 「どうかな」 どうだったかな。 なんて考えなくても思い出すけれど、あの頃の迷いと葛藤を思い出すと、教えてあげたくなる。今、わたしはね、と。思い出せない第二ボタンの行方を思い出そうとしながら、真っ白なノートにペン先を当てながら、タイトルとテーマを考えながら、あの日の出来事を書き出しながら。 ねぇ、これ書いて。 あの頃のわたしが、プロフィール帳を持って来たら、なんて書くだろう。 「もう一枚ちょうだい」 と、ひとまず隣にいる人にも渡そうと思う。 「懐かしいな」 あなたはきっとそう言って笑うだろう。
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