四歩目

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 その日の夜、ぴこんとスマホの上部に通知が表示される。涼先輩がSNSを更新したらしい。考えるよりも早く指先がそれを押して、画面はすっかり見慣れたSNSに切り替わった。  そこにアップされていたのは、机に置かれたいちごミルクの飴玉。「餌付け」とだけ書かれた投稿は、先輩の姿が映っていないのにも関わらず、どんどんいいねが増えていく。  さすが、どんどん勢いを増しているインフルエンサー。  次々と書き込まれていくコメントたちはいつも通りのはずなのに、なんだか無性に胸が締め付けられて苦しい。  授業を受けていた時は隣にいたはずなのに、今は随分と遠く感じる。これまではこの距離感が普通だったのに、変に近づいてしまったから脳みそがおかしくなっちゃって勘違いしてるんだ。  何の罪もないのに可愛らしい包み紙がなんだか急に不快なものに見えてきて、そんな自分がより一層嫌になった。  彼が纏っている煌めきを、僕が近くにいることで消してしまうんじゃないかと本気で思ってしまう。  たとえ涼先輩直々に名前で呼ぶ権利をもらったとはいえ、自分の立場を忘れてはいけない。僕は、彼の住む世界の住人にはなれないのだから。  浮かれた自分を戒める。  これ以上踏み込んだら元の世界に帰ってこれなくなる。だからこのままずるずると流されたら駄目だ。  一方的に思いを寄せて、ストーカーのように彼に近づいた僕が許されるはずがない。
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