一歩目

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 アカウント名は桜の絵文字。  プロフィールには、誕生日と大学の名前。  フォロワー数、十万超え。  こんなに綺麗なひとなんだ。  そりゃあ、有名に決まっている。  テレビの中の芸能人と何ら変わりはない。    天にまで届くほど、高い高い壁がそびえ立っているみたい。遡って過去の写真を見ていけば、その高さはどんどん増していく。  それなのに、ずっと見ていられる。  時間も寝ないといけないことも忘れて、僕は夢中になった。  名前さえわからない。  ヒントは南大学に通う、七夕に生まれた大学一年生。  もっと知りたい。  直接会って、お星さまみたいに綺麗な瞳を覗きたい。  ……僕も南大学に行けば、このひとに出会えるだろうか。そんな邪な考えが思い浮かぶ。  今の志望校よりもランクはひとつ上だけど、頑張れば不可能はない。そう信じた僕は志望校をあっさりと変えた。一時の感情に過ぎないのかもしれないのに、そのときの僕はそれが名案だと信じてやまなかった。  まだすべての写真を見れていないのに、ゆるやかな眠気が再び襲ってきた。    少しの間、指を空にさ迷わせて悩んだ末、僕は結局フォローボタンを押した。    十万を超えるひとが彼の魅力を知っている。  その中のひとりになったことが、何故か少し寂しくて、苦しかった。  時刻は午前三時。  僕は桜咲く一番星の虜になった。
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