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『相方の四暮くんとは大学のときに出会っていて。そのときに何度か誘われていたんですけど、結局勇気が出なかったんです。彼は卒業後にピン芸人として活動していたみたいなんですが、なかなかうまくいかないらしくて。
そんな話を最近彼から聞いて、もうこのチャンスを逃したら後悔するって思って、初めて勇気を振り絞って決意したんです。その決意の表れが、坊主だったって感じで』
彼は慌てたそうだ。そりゃあそうだろう、ある日突然頭を丸めた小芝さんから、『私とコンビを組んでほしい』と言われたらびっくりもするはずだ。
『私、会社を辞める覚悟だったんです。それぐらい本気でやろうって。
でも彼が、「ちょっと待って、お前の本気は伝わってきたから。だけどさ、仕事は続けてほしい。今の時代はフリーランスでもお笑いはできるし、仕事をしながらでもできるはずだよ。週末にあるライブを重ねていって、お笑い芸人として食べていけるってなれば仕事を辞めればいいから」って言ってくれたんです』
あの日、小芝さんから聞かされたその言葉は全くと言っていいほど信じられないものだったが、こうして目の前で彼女の本気を見るとその情熱がひしひしと伝わってきた。
チラっと栄子を見ると、彼女は手を叩いて笑っている。それがわかって、ますます嬉しくなった。
『やりたいことをやっている瞬間っていうのは、何よりも輝いているんだよ』
あのときの先輩の言葉が響いてくる。
頑張れ、小芝さん。
ずっと応援してるよ。
私は涙を拭いながら、そう思った。
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