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かくれんぼ
ある日、おかあさんは僕に言った。「おかあさんの願いは、星になることなの」って。
それまで特に興味のなかった夜空の星。でも、大好きなおかあさんの願いが込められていると知ってからは、夜空を見上げ、星を眺めることが習慣になった。
華やかな街の電飾みたいに輝く星たち。キラキラと僕に微笑みかけてくれる。無数の煌めく光のひとつに、僕のおかあさんもなれたらいいなと思う。
僕の前ではいつも明るく笑顔のおかあさん。だけど、実は体の具合が悪いらしい。
定期的に町のお医者さんが家にやってきては、浮かない表情で帰っていく。普段は陽気なおかあさんも、その時ばかりは落ち込んだ様子。心配して僕が声をかけると、おかあさんは何事もなかったように表情を変え、声を弾ませる。おかあさんにイヤなことが起こらなければいいけど。
僕の町では年に一度だけ、満天の星たちで夜空が埋め尽くされる日がある。町のみんなが星のお祭りと呼ぶ一日だ。
そして、その祝いの夜に、星になれる人が町から選ばれる。そう。選ばれしたった一人だけが、めでたく星に選ばれる。僕はこう思うんだ。僕のおかあさんほどすてきな人は他にいない。だから、次の星のお祭りの日にはきっと、僕のおかあさんが星に選ばれるんだ。そうなればいいなぁ。おかあさんの願いが叶いますように。
ここのところ、おかあさんはずっとベッドで横になったまま、起きてこない。僕が寄り添いその手を握ると、おかあさんは優しい力で握り返してくれる。ほっぺにキスをしてあげると、目を閉じたまま微笑んでくれる。
そういえば、今夜は星のお祭り。
「おかあさんは、きっと星に選ばれるよ」耳元で僕が言うと、「おかあさんもそう思う」と返してくれた。
「お星さまの儀式が行われるのは真夜中だから、あたたかくして眠っておくのよ」と、おかあさん。「わかった」と僕は頷く。
窓から差し込む眩しいほどの星の光。それを浴びながら、僕は祈るようにして眠った。僕のおかあさんが星に選ばれますように。そう心の中で願いながら。
次の朝、飛び起きた僕は、一目散に寝室へ。視界に映ったベッドの上に、おかあさんの姿はなかった。
「うわぁ!」
僕は喜んだ。きっと、おかあさんは星になれたんだ。おかあさんの願いが叶ったんだ!
喜びを伝えるために、僕はおとうさんのいる書斎に向かった。
「おかあさんは星になれたの?!」
するとおとうさんは言った。
「そうだね。おかあさんは、星になってしまったね」
「やったぁ! おかあさんも喜んでるね!」
はしゃぐ僕とは違って、おとうさんは暗い表情。どこか落ち込んでいるようにも見える。どうして、おかあさんの願いが叶ったのに喜んであげないのだろう?
おとうさんの反応に納得できないまま、僕は書斎をあとにした。
それから数日後、家からおとうさんの姿が消えた。家中を必死に探したけれど、どこにもいない。かなり前に、家族でかくれんぼをしたことがあったから、おとうさんが隠れそうな場所を探し回ったけれど、とうとうおとうさんは見つからなかった。
お隣さんが家にやってきて僕に言った。
「残念だけど、おとうさんは太陽に焼かれてしまったんだ」
「太陽に?」
「そう。自ら命を――いや、星に選ばれていないのに、お空へ行こうとすると、太陽に焼かれてしまうんだよ」
果たしておとうさんがそんなことをするだろうか。僕はもう一度、おとうさんの姿を探してみたけれど、結局、見つけられなかった。もしかすると、おとうさんはかくれんぼの名人になってしまったのかもしれない。
澄んだ夜の空を眺めていると、ごくたまに星が流れるときがある。流れ星っていうらしい。普段はじっとして光を放つだけの星が、気まぐれにどこかへ飛んで行く。不思議だなぁ。そんな風に思って見ていた。
その夜も、ひとつだけ星が流れていった。
かすかな閃光を残し、遠くへと流れたその星。瞬きをも許さないその一瞬の輝きが、どこかおかあさんの笑顔と似ていて、気づくと僕は家を飛び出していた。
流れ星が飛んでいった場所へ行けば、おかあさんに会える。僕はそう信じ、星が流れた方角に向かってどこまでも走った。
星のお祭りの日でもないのに、その夜は騒がしいほどの星が煌めいていて、満天の星空がとても近くに感じた。手を伸ばせば触れられるほどに。
僕には願いがある。それは、もう一度、おかあさんに会って、一緒に星になること。果てしなく広がる夜空に浮かび、おかあさんと一緒に輝いていたい。
駆けた先に待つ流れ星――おかあさんと会えることを想像すると、自然と涙が溢れてきた。僕、嬉しいはずなのに、どうして泣いているんだろう。おかしいなぁ。もうすぐおかあさんに会えるっていうのに。
おかあさんに会ったら相談しないと。そう。おとうさんのこと。太陽に焼かれちゃったらしいけど、そんなのはきっとウソだ。おとうさんは今もどこかに隠れていて、僕に見つけてもらうのを待っている。
だからおかあさんにこう言うんだ。
「二人で星になって町を見下ろせば、おとうさんがどこに隠れていたって、きっとすぐに見つけられるね」って。
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