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陸は結局、食事会を決行する事も中止する事も決める事ができなかった。
とうとう食事会の当日になった。陸と息子は先に店のテーブルについて桜愛を待った。
店のドアが開くと薄いピンクのワンピースで、髪をハーフアップにした美人が見えた。陸が手を挙げると微笑みながら陸と息子のもとまで来た。桜愛は笑顔で微笑んだ。
「初めまして。宝生 桜愛と言います。今日はお食事一緒にさせて下さい」
陸は桜愛を見てにっこり笑い、席に着くように促す。
無表情の息子に陸は、挨拶をするように促した。
「始めまして。二階堂 爽です」
息子の爽は無表情の顔をして挨拶をした。
陸と何となく顔は似てはいる気がするがしゅっとした顔立ちの美青年で体型も細い。
注文を終えると、陸はテーブルの上で組んでいた指をほどき膝の上に置いた。ゆっくり言葉を選びながら爽に話す。
「爽……お父さんにとって爽は大切な息子だけど、桜愛さんもお父さんの大切な人なんだ。だからお前に紹介しときたかったんだ」
桜愛は突然の陸の言葉に驚いたが、爽の顔色を気にして表情を伺う。陸は真っ直ぐな瞳で、2人の顔を見比べた。
「お父さんの好きにすればいいよ。僕のお母さんは1人だけだから……」
桜愛は爽を見て困った顔で頷いた。
陸は桜愛の顔を心配して見ている。
「そうだね……爽くんのお母さんは1人だけだよね」
桜愛は、陸を見て力無く微笑み頷く。陸は悲しそうな顔をして膝の上にある手を力強く握りしめた。
空気を読んだようにウェイトレスが料理をそれぞれの目の前に置く。料理からは湯気がたち一段と料理は美味しそうに見えるのに食欲はわかない。
爽は注文したミートスパゲティを2人の表情さえ気にせずに食べ始める。
話しなんて盛り上がるはずもない。
それでも桜愛は終始笑顔で食事をした。
ーー爽くんも陸にやっぱり似ててかわいい……。爽くんごめんね。嫌な気持ちになったよね。ごめんなさい。
食事も終わりドア前で爽の幼馴染の詩織の家族とすれ違う。詩織は爽に手を降りながら店に入っていった。爽は素気ない表情で詩織を見た。
陸は桜愛を送ると申し出たが、桜愛は寄る所があるからと断り店の前で別れた。
陸と爽は帰路の車内で何も話さなかった。
陸は運転しながら険しい顔をしている。
ーー爽は桜愛の事、気に入らなかったんだろうな……。桜愛は、あんな顔をしていたけど大丈夫かな……。1人で帰らせてしまった。俺は男としても父としても駄目だな……。
爽は後部座席で流れゆく景色を見ていたが、自分の顔が時々窓ガラスに写しだされるのを目にした。今の自分は苦しそうな顔をしている。
ーー自分が2人を傷つけているのに何でこんな顔をしているんだろう。自分の思い通りになっているはずなのに……。
家に帰ってもすぐに2人とも自分の部屋に入った。
桜愛は、店で陸達と別れてから、どうやって帰ってきたかあまり覚えていない。
部屋に入るとどんどん涙が溢れでてくる。
想いが溢れてしまわないように、家まで必死に我慢していた。
桜愛は、食事会前に決めていた事があった。
陸の息子が賛成できないなら付き合いも終わろうと。
結果は、駄目だった。
当人だけがよくても周りが駄目なら終わらせないといけない関係。これが大人の恋愛。始めからわかっていた……大人の恋愛は難しいと。
でも陸の事は好きで本当に一緒にいる未来を考えてしまった。大人の恋愛は、若い頃に比べて負う傷も深いと感じた。心がすり減りそうだ。
一晩中思い出しては涙が溢れた。
スマホを見れば陸からの連絡が何度もあったが、返事も既読もつけられなかった。
陸も爽も皆んなが傷を負った食事会だった。
陸と次に話す時は、もう別れの言葉しかないと桜愛は考えていた。優しい陸は別れようとは言えないはずだから……。
桜愛は、思った以上に陸の事を好きになっていた。
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