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桜愛は20時頃、空き時間にラジオ局の屋上で夜景を見ながら、陸とのあの日を思い出していた。
そして思いきって電話をかると、すぐに愛しい人の声が聞こえた。
「桜愛、何回連絡しても出ないんだもん。大丈夫だった?食事会ごめんね……。また仕切り直ししよ?」
桜愛は電話の向こうから心配する温かい陸の声を聞き、涙が溢れる。
「大丈夫。陸ごめん……。陸にも爽くんにも嫌な思いさせた……」
「何言ってるの?桜愛のせいじゃないだろ?」
「陸……もう別れよう。私達2人だけの気持ちだけじゃ付き合えない……」
陸は桜愛の言葉に何も言えなくなった。
無言の電話には、風の音が聞こえる。
「陸……大好きだった」
「桜愛…大好きだよ……」
溢れでて止まらない涙が陸にばれないように冷静を装う。
「陸……ありがとう。さよなら…」
「桜愛……」
桜愛は陸が何か言いきる前に電話を切った。そして涙が止まらず声を出して泣いた。
陸は電話を切ると、車を降りて自宅のドアを開けた。
陸もまた桜愛との別れに心が追いつかない。無言で帰宅した。リビングにいた爽は、表情も暗く何も話さず肩を落としている父を見て悟った。
ーー俺のせいで桜愛さんと別れたのかな?
食事はいらないと足速に父は部屋に入る。
あんなに落ち込んでる父を始めてみた。爽は胸が痛んだ。
数日すると、父も表情は少し明るくなったが、無理をして笑っているのは見てとれた。
食事量も少なく、別に俺に文句を言ってくるわけでもない。気を使われているのがわかる。
「爽……この前の桜愛さんの事は忘れていいぞ。母さんは1人だけだもんな。ごめんな。もう大丈夫だから」
微笑みながら俺を見る父は悲しそうな目をしていた。
「どういう事?桜愛さんと別れたの?」
「お前が気にする事じゃない。振られたんだよ」
「俺のせい?」
「お前のせいじゃない。父さんのせいだ。だから気にするな!」
父は食欲もないのに、から元気でおかずを沢山食べる振りをする。
俺は罪悪感でたまらなくなり父を見て涙が溢れた。
「別れる事なかったんだよ……俺は母さんが1人しかいないって言っただけで、父が好きな人の事我慢する必要ないだろ?俺のせいで、父が幸せになれないの辛いよ……ごめん……」
陸は、涙を流す爽の頭を撫でる。
「ごめんな。俺が元気なかったから、自分のせいだと思わせてしまって。これは俺が悪いから爽はもう気にするな!大丈夫だから」
「俺桜愛さんも傷つけた……。桜愛さんてどんな人?」
爽は、全く知ろうとしなかった桜愛の事が急に気になり始めた。
「桜愛は俺の初恋の人。勇気がなくて告白も出来なかった」
「そうだったんだ……桜愛さん大丈夫かな?」
「あいつは大丈夫だよきっと……。あ!桜愛はラジオのパーソナリティなんだ。お前知らない?30 minutes left ?」
番組名を聞き一瞬で爽は顔色が変わった。
「え?あの桜愛さん?俺よく相談メールしてた!……何だよそれ……」
爽は、前から桜愛の事を知っていたのに、1ミリも受け入れなかった自分に呆れ、自笑した。
それを見た父は、いつもの優しい笑顔になっていた。
久しぶりに2人で声を出して笑った。
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