ラジオパーソナリティの大人の恋の進め方

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同窓会の会場は、洒落た外観のホテルで15階にある。BARは貸し切りで照明は暗く、沢山の人が集まっているのはわかった。 桜愛は卒業してから、高校の友達とは段々疎遠になっていき、連絡をとっている友達は1人だった。 その友達も数年前亡くなっていた。 恐る恐る受付をして、カウンターの隅の席に座る。 ラジオパーソナリティなんてやっているが、こんな誰が誰やらわからない所でグイグイいけるわけもなく、カクテルを飲みながら周りを観察する。 皆んな何度も参加しているのか、顔を見ればすぐに話しで盛り上がる。桜愛は参加者の顔を見てもわからないし、記憶の隅の思い出もでてこない。 ーー卒アルで勉強してくればよかった……。 桜愛はここに来た後悔と疎外感でカウンターに、肘を付き1人でカクテルを飲んでいた。 すると、ふくよかな体型のボブの女が桜愛の肩を叩く。桜愛は女を見た。 「久しぶり。珍しい。美樹だよ?桜愛変わってないね?長く連絡とってなかったけど元気にしてた?結婚は?今どうしてるの?」 体型も変わり少しシワもでてきているが、話し方は昔と変わらない。段々思い出が蘇る。桜愛は知り合いとわかるとやっと緊張が取れた。 「結婚してないよ。1人だよ。結婚しろって言われてるよ」 美樹と話していると見覚えがある人がどんどんよってくる。皆んな結婚し子供もいるようで、子供や夫、義理母の話しで盛り上がる。 桜愛は話題についていけず、結局ゆっくり皆んなの輪から離れた。 カウンターに戻り皆んなの笑い声をBGMに窓の外を見た。 15階という高さからみる夜景は綺麗で、高校時代には想像もつかなかった風景がここにある。 同じ授業を受け、同じ年齢だけ生きている同級生達はいつの間にか桜愛とは違う経験をし、何だか劣等感を感じた。 グラスに入った炭酸の泡が氷にぶつかりキラキラしているのに見入っていた。 「桜愛……久しぶり」 桜愛は、落ち着いた声がする方を見た。 中肉中背でチャコールグレーの色合いのスーツをきた紳士が横に立って微笑んでいる。 目元のシワがあるが、昔と変わらない瞳で私を見ていた。 「陸……久しぶりだね」 誰の事もすぐには思い出せなかったのに、一目みて陸を認識した。桜愛は微笑み、陸も横に座る。 「桜愛全く変わってないね。びっくりしたよ。今何やってるの?」 「ラジオのパーソナリティとかいろいろ」 「え?すごい。ラジオ聴いたら桜愛の声聴ける?」 「聴ける。30分だけだけど……」 陸は桜愛の顔を見て驚き興奮している。 「あれ?でも、桜愛は看護学校行ってなかった?」 陸の言葉に桜愛は目を大きく見開き口角が上がった。 「よく覚えてるね。そうだよ。看護師になった。看護師もしてる。正確には2つしてるの」 「そうなの?何でラジオなの?」 「そうなるよね?青天の霹靂って感じ?」 「は?」 「患者さんにパソコンの会社secの役員の人がいて、その人に電子カルテの使用感について10分講演会で話しをしてほしいって勧誘されたの。」 「見る目あるねその人。確かに昔から、桜愛はチャーミングだった」 昔とは違い恥ずかしげもなく陸は私の目を見て呟く。こちらが逆に恥ずかしくなり、聞き流す事にした。 「始めは断ろうと思ってたんだけど、このまま看護師だけの生活も物足りないかと思ってやってみたんだ。そしたら、その講演会に来てた今のラジオ会社の人が役員と仲良くて、とんとん拍子にラジオやってみない?になって今に至るって感じ」 陸は黙って聴いていたが、小さく胸もとで拍手をした。桜愛は陸の人差し指を見た。 「桜愛は凄いね。アクティブだよ。昔から自由な感じだったから少し羨ましかった」 「陸が?羨ましいとかないでしょ?成績も何しても優秀な陸に、あたしはなりたかったよ」 陸は鼻で笑って酒を一口飲んだ。桜愛も微笑みカクテルを口にした。リキュールが沈んでいたようで、先程よりも口の中が甘くなった。 先程と変わらず家族の話しで盛り上がる後の集団の声もなぜだが、今では小さく聞こえ先程よりも耳障りになる事もない。疎外感もなくなっていた。 昔のように2人の微妙な距離感を思い出し、何だか少しドキドキする。 桜愛は、久しぶりの胸の高鳴りにここに来て良かったと思い初めていた。
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