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陸は帰宅後、息子に合わせたい人がいるので、食事会について昨日伝えたが、息子の反応は無くそのまま部屋に入っていった。
妻が亡くなって、男2人で生活してきた。仕事も忙しく、なかなか息子とコミュニケーションがとれず子育てに苦戦していた。
息子は特に問題を起こす事もなく優等生ではあったが、何を考えているのかわからない。腹を割った話しなんてしてくれない事を理解していた。
ーー桜愛のこと気に入ると思うんだけどな……。
今日こそは、息子に桜愛との食事を承諾してもらおうと玄関のドアを開けた。
「ただいま……」
抑揚のない声で息子が返事をしてくれる。
「おかえり……ご飯準備するよ……」
息子は、陸の顔を見ずに準備していた食事を出際よく温めてくれた。シチューのいい匂いが部屋中に満たされ温かい家庭を思わせる。
ーーやっぱり桜愛に会いたくないのかな……。桜愛とは別れないといけないのかな……。俺は自分勝手な親なのか……?
陸は、椅子に座ったまま息子の気持ちを考えていた。
陸の目の前に美味しそうなシチューが出され、サラダやパンなどが並べられた。
並べ終わると息子は何も言わず部屋に戻っていく。
「食事会やめるか?お前の母さんは1人なのは変わらないよ。お前が嫌なら止めよう」
陸は息子の後ろ姿を見つめる。息子は、振り返り陸の悲しそうな顔を見た。
「俺には関係ない人だけど、もう約束してるんだろ?会うだけ会うよ。父さんの好きにすればいいよ!」
息子はすぐさま部屋に入る。
陸は、息子の返事を聞き肩を落とした。
食欲はなくなったが、準備してくれたシチューを口にする。先程まで湯気が出ていたシチューも今では冷たくなり、甘さや味も何も感じなかった。
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