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1 僕の夢は生きていた
アニメ研究同好会の会議で、家に帰るのが遅くなった。でも7月の午後7時は、まだまだ明るいし暑い。僕は、フェイスタオルで額の汗をぬぐった。
「ただいまー」
僕が、ドアを開けると同時に、中学生の妹が、慌てて飛び出してきた。口には食パンをくわえている。
「お帰り兄貴! バスケ部で遅くなってさ。今から塾だよ。それじゃあ、またな!」
妹は、バックパックを背負いながら、駅に向かって走っていった。塾は、電車で3つ目の駅前にある。いつもなら、もっと早くに出かけているはずだけど。キッチンで晩御飯を作っている母さんに聞いてみた。
「母さん、輪ちゃん今から塾に行くの? いつもより遅いじゃん」
「部活よ、部活。バスケットボール部の練習で遅くなったんだって。吹雪は、すぐ晩御飯食べるよね?」
「うん。着替えてくるよ」
僕は自室のある2階へ。途中にある妹の部屋……。ドアが開けっぱなしだ。
「輪ちゃん、不用心だなあ。よっぽど急いでたんだな」
ドアを閉めつつ、チラリと部屋をのぞいた。妹は最近、絶対部屋に入れてくれない。部屋の中を見るのは何年ぶりだろう。おお! これが女子中学生、それも2年生の部屋か……。後ろめたいけど、ちょっとときめくな。
「おわ!」
思わず声が出た。僕の目をくぎ付けにしたのは、ベッドに脱ぎ散らかされている夏物のセーラー服だ。僕は制服フェチじゃないけど、セーラー服には特別の思い入れがあるんだ。
それは僕が、小学校3年生のときに夢中で見ていたアニメ。高校2年生になった今でも、ありありと思い出す伝説のアニメ。
『花の少女戦士! フラワーエンジェルチェリー!』だ。
そのフラワーエンジェルチェリーのコスチュームがセーラー服なんだ。他にも同じようなセーラー服の少女戦士アニメが2、3あったけど、フラワーエンジェルチェリーが最高だ。
男子にとって正義の味方は、特撮ヒーローやロボットアニメだったけど、僕にとっての正義の味方は、『フラワーエンジェルチェリー』だった。
決して暴力を使わず、桜の花吹雪を武器に、悪を懲らしめる。毎回変わらない、あまりにも単純すぎる勧善懲悪のストーリー。
その中で一番ときめきをおぼえたのが、フラワーエンジェルチェリーが着ていたセーラー服だった。珍しくもないセーラー服の何が、僕をときめかせたかは、いまだにわからないけど、とにかく夢中になった。
僕は正義の味方フラワーエンジェルチェリーになりたかった…………。
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